それは偶然? それとも必然? 私を呼んだのはあなた? それとも… 「綺麗だね…澪」 「うん…」 深い山の奥、流れる川を見つめながら双子の少女はそっと微笑んだ。 お互いの背を預けるようにして岩に腰かけている。 姉の名は繭。 妹の名は澪。 とても仲の良い姉妹だった。 「久しぶりだよね、ここに来るの」 「そうだね…」 そう呟いて空に目を向けると、ふっと幼い頃の記憶が頭を過った。 山道を駆ける自分と、それを追う姉の姿。 活発な自分とは違い、姉はいつも静かで、双子とは言っても様々な面で差が存在した。 でも幼い頃の自分はそのことに気づいていなかった。 「置いて行かないで、澪…!」 泣きそうな声で姉が私を呼ぶ。 でも私はそんな姉に全く気づかないまま、先へ、先へと進んで行く。 「澪…!」 「お姉ちゃん、早く早く〜」 後ろを振り返ることもせず、そう言ってただ前へ向かう私。 そして聞こえた姉の悲鳴。 「お姉ちゃん…?」 振り返っても姉の姿はどこにもなくて。 「お姉ちゃん?どこ?」 引き返しても、姉の姿はどこにもなかった。 「お姉ちゃん!」 いつもと変わらない景色。 でもそこに姉の姿がない。 たったそれだけで、私は急に不安に押し潰されそうになった。 この広い世界に自分しかいないような気がして…。 「お姉ちゃん!!」 私は必死に姉の姿を捜した。 辺りが薄暗くなって烏の鳴き声が聞こえても、山の中を歩き回った。 それでも姉は見つからなくて… 結局、姉は翌日になって叔父に発見された。 足を滑らせて転落し、動けなくなっていたのだと、姉が運ばれた病院で聞かされた。 命に別条は無かったけれど、姉はそのときの傷が元で左足を悪くした。 あのとき私が姉を置いて行かなければ…。 私がちゃんと姉の手を握っていれば…。 こんなことにはならなかったのに。 どんなに謝っても、許してはもらえない。 だから、決めた。 この先、どんなことがあったとしても、私はもう姉の手は離さないと。 私が姉を守るのだと。 それが、私にできる唯一の償いだから…。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |