FAITAL FRAME〜紅い蝶〜
□一ノ刻 地図から消えた村

それは偶然?

それとも必然?

私を呼んだのはあなた?

それとも…



「綺麗だね…澪」


「うん…」


深い山の奥、流れる川を見つめながら双子の少女はそっと微笑んだ。


お互いの背を預けるようにして岩に腰かけている。


姉の名は繭。


妹の名は澪。


とても仲の良い姉妹だった。


「久しぶりだよね、ここに来るの」


「そうだね…」


そう呟いて空に目を向けると、ふっと幼い頃の記憶が頭を過った。


山道を駆ける自分と、それを追う姉の姿。


活発な自分とは違い、姉はいつも静かで、双子とは言っても様々な面で差が存在した。


でも幼い頃の自分はそのことに気づいていなかった。


「置いて行かないで、澪…!」


泣きそうな声で姉が私を呼ぶ。


でも私はそんな姉に全く気づかないまま、先へ、先へと進んで行く。


「澪…!」


「お姉ちゃん、早く早く〜」


後ろを振り返ることもせず、そう言ってただ前へ向かう私。


そして聞こえた姉の悲鳴。


「お姉ちゃん…?」


振り返っても姉の姿はどこにもなくて。


「お姉ちゃん?どこ?」


引き返しても、姉の姿はどこにもなかった。


「お姉ちゃん!」


いつもと変わらない景色。


でもそこに姉の姿がない。


たったそれだけで、私は急に不安に押し潰されそうになった。


この広い世界に自分しかいないような気がして…。


「お姉ちゃん!!」


私は必死に姉の姿を捜した。


辺りが薄暗くなって烏の鳴き声が聞こえても、山の中を歩き回った。


それでも姉は見つからなくて…


結局、姉は翌日になって叔父に発見された。


足を滑らせて転落し、動けなくなっていたのだと、姉が運ばれた病院で聞かされた。


命に別条は無かったけれど、姉はそのときの傷が元で左足を悪くした。


あのとき私が姉を置いて行かなければ…。


私がちゃんと姉の手を握っていれば…。


こんなことにはならなかったのに。


どんなに謝っても、許してはもらえない。


だから、決めた。


この先、どんなことがあったとしても、私はもう姉の手は離さないと。


私が姉を守るのだと。


それが、私にできる唯一の償いだから…。

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