「この家が…桐生家よね」 柏木家に続く通りを挟んで、橋で繋がっている家の前に澪は立っていた。 意を決して扉を開けると、木の腐った臭いと埃の臭いが鼻をついた。 「……」 懐中電灯で辺りを照らしながら中へ入る。 そして一番近くの部屋へ入った瞬間、澪は思わず小さな悲鳴を上げた。 「に、人形…?」 部屋の中にはたくさんの人形がぶら下がっていた。 しかも全部首吊り状態である。 不気味以外のなにものでもない。 「……な、何なのよこの村は……」 思わずそう呟いて、澪はおっかなびっくり人形の間を通って廊下に出た。 「はあ…嫌だなあ……早く立花家に行かなきゃ…」 柏木家も十分不気味ではあったが、この家はどこか違う雰囲気を感じる。 怖いというよりも気味が悪い。 得体の知れない恐怖がここにはあるような気がした。 「何か…荒れてる……何があったんだろう」 つきあたりにある座敷は、押入れから布団が飛び出し、積み上げられた葛篭が崩れ、ひどい有様だった。 「…ん?」 ふと見ると、倒れた机の横に緑色の本が落ちていた。 "緑色の日記" 先生と一緒にこの村へやって来て数日が経った。 でも兄さんの手掛かりはまだ何も掴めていない。 兄さんがこの地へやって来たことは確かなのに。 この村はどこか懐かしい感じがする。 村の雰囲気が僕達の故郷と似ているからなのか。 ここもやっぱりあの村と同じ。 村人たちの目は全てを諦めているかのよう。 何だか胸騒ぎがする。 先生も僕と同じことを考えているようだけど、大丈夫なんだろうか。 でもここ以外にもう兄さんの行方を知る術は無い。 逃げ出す訳にはいかない。 「誰かの日記かな……」 そう呟いて本を閉じると、パタパタと足音が聞こえた。 振り返ると、障子戸の向こうを小さな影が通り過ぎて行った。 廊下に戻ってその後を追って行くと、柏木家にあったのと同じような双子部屋に出た。 二つ並んだ鏡台の脇に、紫色の日記が置いてある。 何気なく手にしてページを開いた澪は、うっと呻いて日記を放り投げた。 「ドウシテコロスノ」という文字だけがページを埋め尽くしていたのだ。 とても正気の人間が書いたとは思えない。 「やっぱり気味が悪いこの家……早く探そう」 ぶるりと体を震わせ、澪は双子部屋を後にした。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |