FAITAL FRAME〜紅い蝶〜
□五ノ刻 鬼隻

「この家が…桐生家よね」


柏木家に続く通りを挟んで、橋で繋がっている家の前に澪は立っていた。


意を決して扉を開けると、木の腐った臭いと埃の臭いが鼻をついた。


「……」


懐中電灯で辺りを照らしながら中へ入る。


そして一番近くの部屋へ入った瞬間、澪は思わず小さな悲鳴を上げた。


「に、人形…?」


部屋の中にはたくさんの人形がぶら下がっていた。


しかも全部首吊り状態である。


不気味以外のなにものでもない。


「……な、何なのよこの村は……」


思わずそう呟いて、澪はおっかなびっくり人形の間を通って廊下に出た。


「はあ…嫌だなあ……早く立花家に行かなきゃ…」


柏木家も十分不気味ではあったが、この家はどこか違う雰囲気を感じる。


怖いというよりも気味が悪い。


得体の知れない恐怖がここにはあるような気がした。


「何か…荒れてる……何があったんだろう」


つきあたりにある座敷は、押入れから布団が飛び出し、積み上げられた葛篭が崩れ、ひどい有様だった。


「…ん?」


ふと見ると、倒れた机の横に緑色の本が落ちていた。


"緑色の日記"

先生と一緒にこの村へやって来て数日が経った。

でも兄さんの手掛かりはまだ何も掴めていない。

兄さんがこの地へやって来たことは確かなのに。

この村はどこか懐かしい感じがする。

村の雰囲気が僕達の故郷と似ているからなのか。

ここもやっぱりあの村と同じ。

村人たちの目は全てを諦めているかのよう。

何だか胸騒ぎがする。

先生も僕と同じことを考えているようだけど、大丈夫なんだろうか。

でもここ以外にもう兄さんの行方を知る術は無い。

逃げ出す訳にはいかない。



「誰かの日記かな……」


そう呟いて本を閉じると、パタパタと足音が聞こえた。


振り返ると、障子戸の向こうを小さな影が通り過ぎて行った。


廊下に戻ってその後を追って行くと、柏木家にあったのと同じような双子部屋に出た。


二つ並んだ鏡台の脇に、紫色の日記が置いてある。


何気なく手にしてページを開いた澪は、うっと呻いて日記を放り投げた。


「ドウシテコロスノ」という文字だけがページを埋め尽くしていたのだ。


とても正気の人間が書いたとは思えない。


「やっぱり気味が悪いこの家……早く探そう」


ぶるりと体を震わせ、澪は双子部屋を後にした。

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