FAITAL FRAME〜紅い蝶〜
□四ノ刻 紗重

「きゃあっ」


ふっと体が軽くなり、澪はべしゃっと床に倒れた。


突然の出来事に受け身を取ることもできず、顔面を強打し、一瞬泣きそうになる。


「痛たたた…っ」


澪が痛みに悶えていたそのとき、


「おいおい、何やってんだ八重。大丈夫か?」


澪の前にすっと手が差し伸べられた。


茫然としたまま顔を上げると、そこに20代後半くらいの見慣れた男性の姿があった。


いつものラフな格好とは違い、紺色の着物を着ているが、間違いなく澪たちの叔父であった。


「お、叔父さん!?」


澪が叫ぶと、男性は片手に籠を持ったまま訝しげな顔をして言った。


「どうしたんだ?八重」


……八重?


すっと頭が冷えて、澪は床に座り込んだまま男性を見上げた。


叔父に瓜二つではあるけれど、どこか違う雰囲気を感じる。


そもそも叔父であるならば、自分のことを八重と呼んだりはしない。


「全く…お前はいつまでもおてんばだな。元気なのはいいが、はしゃぎすぎて怪我するなよ」


呆れたように言って男性は澪の腕を引いて立たせた。


そこでようやく、澪は自分が白い着物を着ていることに気づいた。


勿論、着替えた記憶などない。


澪が困惑していると、男性は籠を持っていない方の手で澪の腕を掴んで歩き出した。


「ほら、行くぞ八重」


「あ、あの…っ」


自分は八重ではない。


そう言いかけて澪は口をつぐんだ。


ここで騒いだところで、仕方がない。


男性は自分を八重だと思い込んでいるようだし、あの宮司のような敵意は感じられない。


触れている手も、かすかにぬくもりが感じられる。


それに…妙に安心感を感じる。


彼が自分のよく知る叔父にそっくりだからだろうか?


「……これは夢……なのかな」


ぽつりと呟いて、澪は男性の後を追った。

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