「きゃあっ」 ふっと体が軽くなり、澪はべしゃっと床に倒れた。 突然の出来事に受け身を取ることもできず、顔面を強打し、一瞬泣きそうになる。 「痛たたた…っ」 澪が痛みに悶えていたそのとき、 「おいおい、何やってんだ八重。大丈夫か?」 澪の前にすっと手が差し伸べられた。 茫然としたまま顔を上げると、そこに20代後半くらいの見慣れた男性の姿があった。 いつものラフな格好とは違い、紺色の着物を着ているが、間違いなく澪たちの叔父であった。 「お、叔父さん!?」 澪が叫ぶと、男性は片手に籠を持ったまま訝しげな顔をして言った。 「どうしたんだ?八重」 ……八重? すっと頭が冷えて、澪は床に座り込んだまま男性を見上げた。 叔父に瓜二つではあるけれど、どこか違う雰囲気を感じる。 そもそも叔父であるならば、自分のことを八重と呼んだりはしない。 「全く…お前はいつまでもおてんばだな。元気なのはいいが、はしゃぎすぎて怪我するなよ」 呆れたように言って男性は澪の腕を引いて立たせた。 そこでようやく、澪は自分が白い着物を着ていることに気づいた。 勿論、着替えた記憶などない。 澪が困惑していると、男性は籠を持っていない方の手で澪の腕を掴んで歩き出した。 「ほら、行くぞ八重」 「あ、あの…っ」 自分は八重ではない。 そう言いかけて澪は口をつぐんだ。 ここで騒いだところで、仕方がない。 男性は自分を八重だと思い込んでいるようだし、あの宮司のような敵意は感じられない。 触れている手も、かすかにぬくもりが感じられる。 それに…妙に安心感を感じる。 彼が自分のよく知る叔父にそっくりだからだろうか? 「……これは夢……なのかな」 ぽつりと呟いて、澪は男性の後を追った。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |