「さ、お姉ちゃん、早くこの家から出よう」 「あ…待って、澪。これ……」 部屋を出ようとする澪に、繭が何かを差し出す。 「さっき拾ったんだけど…どこかの鍵かな」 繭が差し出した札鍵には、蝶の模様が刻まれている。 「そういえば…玄関近くに、これと同じ模様の扉があった気がする。そこの鍵かも。…とにかく玄関に戻ってみよう」 「…うん」 こくりと頷いて繭は澪に鍵を渡した。 玄関へと戻って来た二人は外に出ようと試みたが、玄関は強い力で封じられており開かなかった。 「どこかに別の出口があるはず…。探すしかないみたいだね」 「反対側に行ってみる?」 繭が言い、澪はポケットから札鍵を取り出して扉に差し込んだ。 扉を開けると、そこは物置部屋になっているらしく、二階に続く階段と、奥へ続く廊下があった。 廊下へと向かって歩き出した瞬間、階段の上から何かが転がり落ちた。 「毬…?」 繭がそっと拾い上げ、階段の上を見る。 つられて澪も視線を向けるが、階段の上に人影は見当たらなかった。 誘われるように二階へと上がると、衝立が並んだ奥に頑丈そうな扉があった。 「澪…何か聞こえない?」 繭が言い、澪は扉に近づいて耳を澄ませた。 『どうにか例の儀式は済みましたが…園崎の方はまだ……』 『間に合わぬか……。ならばあの客人を使うか。一人だけでも捕らえられれば、時間稼ぎにはなろう。…よいか、あの男のように決して逃がしてはならぬぞ』 扉の向こうで去って行く足音と物音が聞こえ、声はしなくなった。 「客人…?」 その言葉に、澪は真壁という人物が記した本のことを思い出した。 良蔵という人物の兄を捜してこの村を訪れたようだが、客人というのは彼らのことだろうか。 「澪、ここ…もういたくない。早く出よう?」 不安そうな顔で腕を引く繭を見て、澪は小さく頷き、階段へと引き返した。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |