「ん……」 ふと目を覚ますと、そこは面の向こうで見た目隠しの間でした。 ゆっくりと起き上がった瞬間、私はびくりと肩を震わせました。 祭壇の近くに着物の男性が立っていたからです。 男性は私の存在に気づいていないのか、祭壇を調べています。 『やはりここが……だとすると、これで鬼の口の門が開く。急がなくては……』 そう呟いて振り返った男性の顔を見て、私ははっとしました。 どこかで見覚えがあるような気がしたのだけど、それが今はっきりとわかったのです。 男性は、兄さんの友人にとてもよく似ている。 …いえ、似ているなんてものじゃない。 着ている物こそ違うけれど、確かにその人。 兄さんとは大学時代からの友人で、私も何度か会ったことがあります。 若手ノンフィクション作家として活躍している人ですが、確かこの氷室邸のことを兄さんに教えてくれたのも彼だったはず。 同一人物? でも、何か違うような気がする。 兄さんと清純さんのように、この人も… 男性はすっと私の前を通り過ぎ、部屋を出て行きました。 「…鬼の口……あの門のこと?」 ふと見ると、祭壇の中に奇妙な面が置かれていました。 「これは……」 目の部分に杭のようなものが刺さった面。 目隠しの面。 これで兄さんが入って行ったあの門が開くのでしょうか…。 と、そのとき、足に違和感を感じて、私はぎょっとしました。 足首に、両手と同じ、縄の跡が浮かび上がっていたのです。 これが何なのかはわからないけれど、強い殺気を感じる。 呪い…? もしかして、兄さんも… 「…兄さん……」 どうか無事でいて… そう願いながら、私は目隠しの間を後にしました。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |