縄殿からさらに奥へと進むと、巨大な門があった。 注連縄で封じられていたようだが、半分開きかけてしまっている。 「体が……重い……」 それまでとは違う嫌な空気が漂っている。 まるで重しでも乗っているかのように、体が重く、沈みそうだった。 「…これが…黄泉の門……」 気が遠くなりそうだったが、僕はゆっくりと前に進んだ。 門へと近づくと、足に何かが当たった。 視線を下に向けると、そこに汚れた日記の断片が落ちていた。 "日記の断片" もうすぐ儀式が始まる。 もう迷いはない。 これが私の宿命なのだから。 でも、できることなら最後に一言、お別れの言葉を伝えたかった。 あの人は里へ帰られたのだと宮司さまは仰ったけど、どうして何も言わずに出て行かれたのか。 寂しかったけれど、これでよかったのかもしれない。 あの人の顔を見たら、きっと迷ってしまうだろうから。 生きろと言ってくれたあの人には申し訳なく思う。 でもこれは、私が生まれて来た意味そのもの。 哀れだと思わない訳ではないけれど、これでいい。 短い間だったけれど、生きる喜びを教えてくれたあの人に出会えて本当によかった。 今はただ、あの人が無事に想い人のもとへ帰られたことを祈ります。 「これは……キリエの…」 その時だった。 耳元で女性の声が響いた。 『あの人が無事に帰られたのなら、それでよかったのに……』 「!?」 驚いて振り返った瞬間、ぐっと喉が締め付けられた。 鳥居のそばにキリエが立っている。 「う…っ」 首に縄が食い込み、それを外そうと両手を掛けると、手首にも縄が巻きついて食い込んだ。 五肢に縄が食い込み、凄まじい力で引っ張られる。 「…っ」 どうすることもできなかった。 腕が、足が、首が、悲鳴を上げている。 もう…限界だ。 そう思った瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。 「兄さん!!!」 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |