失われた命の灯は、魂となりて再び巡り会う。 その心に刻まれた消えぬ想いと共に…。 【零〜zero〜】 ピピピ…というけたたましい機械音で目を覚ました僕は、ぼーっとした視線で時計を探し、ボタンを押した。 「…朝……か。」 もう一度目を閉じたいのを我慢して起き上がり、カーテンを開ける。 …曇りだ。 いつ雨が降ってもおかしくない程、どんよりとした雲が空を覆っている。 梅雨に入ってからずっとこんな調子だ。 「今日も雨…かな。」 少し憂鬱に思いながら着替えを済ませ、昨夜の内に準備しておいた鞄を手に取って僕は部屋を後にした。 階段を下り台所に向かって朝食の用意を始める。 料理があまり得意とは言えない僕は、たいてい食パンとジャムで済ませてしまうのだが、今日は少し肌寒いので温かいコーヒーと妹用にコーンスープも用意した。 それらをリビングにあるテーブルへと運んでいると、二階から高校の制服を着た妹・深紅が下りて来た。 「おはよう、兄さん。」 「おはよう、深紅。」 挨拶を交わし洗面所へと消える妹を見送って、僕は玄関の郵便受けに入っている新聞を取りに行った。 いつもと同じ、毎朝する行動の一つだ。 ……そう、あの記事を目にするまでは。 新聞を取り、挟まっていた広告の束を抜き取った瞬間、僕の目にある記事が飛び込んできた。 ≪人気ミステリー作家失踪!≫という大きな見出しで書かれた、信じられない出来事。 「そんな…高峰先生が!?」 失踪したミステリー作家の高峰準星先生は僕の恩師であり、幼き頃より先生と呼んで慕っていた人物だった。 その高峰先生が取材に行くとの電話を最後に、消息不明になっているというのだ。 「……。」 茫然と新聞を握ったまま立ち尽くしていると、いつの間にか洗面所から戻って来た深紅が不思議そうな顔で僕を見ていた。 「兄さん、どうかしたの?」 「……。」 訊かれても僕に答える余裕はなく、深紅はいっそう不思議そうな顔をして新聞を覗き込んだ。 「!!」 そして記事を読んではっとした表情を浮かべた。 「そんな…高峰さんって確か兄さんの…。」 「……。」 僕は黙り込んだまま、強く新聞を握りしめた。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |