振り返ると、縁を歩く人影が見えた。 紺色の着物を着た若い男性のようだが、ここからでは顔はよくわからない。 しかし、池で見た男性とは違うようだ。 男性は手に持った蝋燭で辺りの様子を窺いながら、柵の向こうの部屋へと入って行った。 「……」 少し迷ったが、僕は男性を追って和人形の間へと入った。 部屋に入ると、奥に男性の姿があった。 『風…?仕掛け扉になっているのか……』 男性は壁を調べているようだったが、僕が一歩奥へ進むと、そのまますーっと消えてしまった。 男性が消えた場所には古い書置きが残されている。 "古い書置き" 清純、もしこれを読んでいるのならば、今すぐこの屋敷を出ろ。 出られぬのなら、今しばらくどこかに身を隠せ。 一体何があったのかはわからんが、氷室の当主殿は完全に正気を失っておるようだ。 もともと腕の立つ人だとは聞いていたが、この屋敷の惨状はすべて当主殿の手によるものなのか。 説得を試みたが、当主殿にこちらの声は届いておらぬようだ。 どうにか仏間に閉じ込めることはできたが、長くは持つまい。 屋敷内で見つけた見取り図によれば、北西にある鬼の口と呼ばれる部屋から地下に入れるようだ。 氷室の鎮魂祭は地下で行われると聞いたことがあるが、もしかしたら外に繋がっているかもしれん。 俺はこれから地下を調べに向かう。 出口が見つかったなら、迎えに行くから、どうかそれまで無事でいてくれ。 柏木秋人 「地下……?」 そういえば、氷室邸のことを教えてくれた友人が、この屋敷には古い地下道があると言っていた。 そこから屋敷の外へ出られるのだろうか。 先生のことも気になるが、出口を見つけないことにはどうにもならない。 「…とにかく地下へ行こう」 僕は書置きを手帳に挟んで部屋を出た。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |