FAITAL FRAME〜zero〜
□第三夜 清純

池の方へ移動すると、首塚に続いていた橋が途中で壊れていることに気づいた。


ふと見ると、橋の近くに何か落ちている。


「日記……?」


拾い上げてみると、それは古い日記だった。


色褪せてしまっているが、藍色の日記のようだ。


"藍色の日記"

この屋敷へ来て幾日経っただろうか。

お屋敷の方々は快く私を迎え入れてくれたが、私の心は晴れぬまま、ただ時間だけが過ぎていくように思える。

彼らはどうしているだろうか。

彼女は元気でいるだろうか。

…そんなことばかり考えてしまう。



ご当主から貸して頂いた部屋の窓からは、中庭の桜の木がよく見える。

風が吹く度に、桜の花びらがひらりと舞う。

…桜を見ると、どうしても彼女のことを思い出してしまう。

別れるときの彼女の悲しげな目が忘れられない。



中庭を歩いていると、ふと故郷に残してきた弟のことが思い浮かんだ。

文の一つでも送ろうかとも思ったが、私の居場所が知れれば父達も黙ってはいないだろう。

彼も、今はどうしているのだろうか。

いつかまた会おうと約束したが、今はまだ戻れそうにない。

ここへ来てから、昔のことばかり思い出す。

この屋敷の雰囲気が故郷の村に似ているからだろうか。



今日、中庭を歩いていると、白い着物を着た女性に出会った。

初めは驚いていたようだが、少しずつ話してくれた。

彼女の名前は霧絵というらしい。

普段は出歩くことを許されておらず、いつもは屋根裏にある座敷牢にいると言う。

なぜそのような場所にいるのかと尋ねたが、彼女は口を閉ざしたまま、答えてはくれなかった。



宮司殿に霧絵のことを尋ねたら、彼女は巫女であると教えられた。

氷室のお屋敷では特別な存在だと言う。

誰もその存在に触れてはならず、特に男性は決して近づいてはならないと言う。

何か嫌な予感がするが、お屋敷に身を置いて貰っている身で、あまり口を挟むのも憚れる。

しかし…霧絵のあの目が気になる。

私も、霧絵と同じような目をしていた時期がある。

…何も起こらなければよいが。



「霧絵…?」


もしかして僕が見たあの白い着物の女性が、霧絵なのだろうか。


しかし、巫女というのはどういう意味だろう。


この屋敷で行われていたという鎮魂祭と、何か関係があるのだろうか。


僕は日記を閉じると、それを抱えて中庭へと戻った。

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