ふと目を覚ますと、和人形がたくさん飾られている部屋の中に、僕は倒れていた。 起き上ろうとした時、自分の手を見て、僕はぎょっとした。 両手首に縄の跡がついていたのだ。 「この跡は…あの女性と同じ……っ」 困惑していると、ふと扉の前にメモが落ちていることに気づいた。 「これは…高峰先生の字だ!」 途中から破れているところをみると、どうやらこれはあの手帳から落ちたメモのようだ。 "黒い手帳の断片" いつのまにか玄関の扉が閉まっている。 入って来たときはすんなり開いたはずだが、何かの拍子に壊れてしまったのだろうか。 とりあえず屋敷内を探索しながら出口を探すことにする。 二階の一室でかつてこの屋敷に住んでいたと思われる民俗学者の日記を発見した。 それによると、この屋敷には地図にも載っていない通路や、様々なからくりが存在するようだ。 一通り回ってみたが、出口は見つからない。 …気のせいか、さきほど玄関近くの廊下で白い人影のようなものを見かけた。 まさか私以外にも誰かいるのだろうか。 「白い人影…?」 僕の脳裏に白い着物の女性の姿が浮かんだ。 もしかして高峰先生もあの女性に捕まったのだろうか。 …急がないと。 手遅れになる前に先生を見つけて、早くここから逃げた方がいい。 この屋敷にはやはり何かがある。 「…ん?」 と、そのとき、僕は自分が何も持っていないことに気がついた。 母の形見である射影機も家から持ってきた鞄も、懐中電灯もない。 襲われたときに落としてしまったのだろうか? 唯一無事だったのは上着のポケットに入れていた先生の手帳と、いつも仕事で使っているカメラ、それと自分の手帳だけだ。 「…そうだ。何があるかわからない、念のため書置きを残しておこう」 もしかしたら深紅が僕の身を案じてここへ来るかもしれない。 思えば深紅は、僕が出掛ける前に何かを感じていたようだった。 深紅の忠告を聞いていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。 だが、それでも僕は…… no 次へ [しおりを挟む][戻る] |