氷室邸。 古くは地方一帯を治める地主の家だったといわれている。 しかし住んでいた一家が行方不明になるなどの事件が相次ぎ、今は訪れる人もなく廃墟となっている。 そんな屋敷の門前に、僕は立っていた。 「…ここが…氷室邸。」 こうして立っているいるだけでも、門の奥から流れ出してくるただならぬ霊気に足がすくむ。 …昔から僕達兄妹は、他の人とは違う特別な能力を持っていた。 普通の人間には聞こえるはずのない声が聞こえ、見えるはずのないものを見てしまう。 俗に霊感と呼ばれる能力だ。 僕はそれとは別にもう一つ特異な力を持っているのだが…まあそれは今回の話とは関係ないだろう。 とにかく僕と深紅は霊感という力のせいで"ありえないもの"を見、感じてしまうのだ。 人込みにまぎれ通り過ぎて行く白い影や着物の少年、直接頭に響いてくるような音や悲鳴。 そんなものを感じてしまうのだ。 そしてこの屋敷は、そんな僕が絶対に近づきたくない場所だった。 何故…と聞かれれば答えに詰まってしまうが。 ただ…近づきたくない。 入りたくない。 一歩でも中に入ってしまったら、もう二度と出られないような気がする。 …しかし、それと同時に確信めいたものを僕は感じていた。 高峰先生はきっとここにいる。 この屋敷に囚われているのかもしれない。 それほど強い霊気を感じる。 「……。」 僕は意を決し、巨大な門に手をかけた。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |