地下へ下り回転扉を通ると、そこはまるで奈落の上の橋のような場所でした。 深い穴の底はただ闇があるばかりで、どこまで続いているのか定かではありません。 「…迷ってる時間はないし、行くしか…ない……」 私は覚悟を決めて、一歩を踏み出しました。 奥へ近づく程に、体が重くなる。 それに、頭の中に色んな声や音が入り込んでくる。 悲鳴、怒声、狂気染みた笑い声。 頭が痛くなりそう…。 でも、退く訳にはいかない。 奈落橋を抜け地下道を進むと、縄殿と思われる部屋に出ました。 中央に大きな台座があり、その周りに五本の柱が立っています。 柱には太い注連縄が巻きついていて、そのどれもが赤黒く染まっていました。 ここで縄の巫女は五肢を引き裂かれる… 「…先を…急がなきゃ……」 嫌な想像を打ち消すように、私は足早に縄殿を通り抜けました。 奥へ、奥へと、進み… やがて私は、巨大な門へと辿り着きました。 おそらくこれが、黄泉の門なのでしょう。 けれど、門に目が止まったのはほんの一瞬でした。 なぜならそこに、兄さんと高峰さんの姿があったからです。 しかも、二人の五肢には縄が巻きついていました。 苦しむ兄さんの姿を見た瞬間、私は半ば反射的に駆け出していました。 「兄さん!!!」 けれど、兄さんに近づくことはできませんでした。 見えない結界のような強い力に阻まれ、どうしても兄さん達に近づけない。 このままじゃ二人共…っ 「!」 私はとっさに持っていた射影機を構えました。 ファインダー越しに辺りを見回すと、門の前に白い人影が立っていました。 五肢に縄が巻き付いた白い着物の女性……縄の巫女、霧絵。 私は意識を集中させ、霧絵さんをファインダーにおさめた状態でシャッターを切りました。 次の瞬間、霧絵さんの姿がふっと消え、後ろで兄さんが倒れる音が聞こえました。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |