Wheel of Fortune〜zero〜
□最終夜 解放

何度も何度も巡る悪夢の世界。


頭の中で響くたくさんの聲。


私というものが崩れていく。


少しずつ消えていって、果てしない海の中を彷徨う。


それでも私の柊は消えない。


消したくない。


この痛みはあの人との唯一の繋がりだから。


どれほどの柊を刻まれても、あの人の夢を見られるのなら耐えられる。


だからどうか消さないで。


このままあの人の夢の中で眠りたい。


……だけど、少しずつ消えていく。


あの人のぬくもり、聲、記憶。


私の中からあの人は消えていってしまう。


繋ぎ止めたいのに、忘れたくないのに、滲んで消えてなくなる。


忘れることでしか、私は私でいられないのなら、もう私はいらない。


……それでも聞こえる。


兄さんの聲が。


呼んでる。私を。


どうか呼ばないで。


振り返ってしまいたくなる。


どうかこのまま、逝かせて。


あの人と一緒に……



ふと気づくと、私は中庭の桜の木の下に立っていました。


しばらく茫然と立ち尽くし、それから深い深呼吸をしました。


……そうだ、私、鬼の口へ引き返してこの中庭まで戻って来たんだ。


もう一度深呼吸してお堂に目をやると、扉が開いていました。


誰かがこの中へ入って行ったようです。


中には高峰さんのメモにあった月の井戸がありました。


井戸には縄梯子が掛かっています。


暗くて底は見えないけれど、メモの通りならここから地下へ入れるはず。


「…兄さん」


私は覚悟を決めて梯子を下り始めました。

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