何度も何度も巡る悪夢の世界。 頭の中で響くたくさんの聲。 私というものが崩れていく。 少しずつ消えていって、果てしない海の中を彷徨う。 それでも私の柊は消えない。 消したくない。 この痛みはあの人との唯一の繋がりだから。 どれほどの柊を刻まれても、あの人の夢を見られるのなら耐えられる。 だからどうか消さないで。 このままあの人の夢の中で眠りたい。 ……だけど、少しずつ消えていく。 あの人のぬくもり、聲、記憶。 私の中からあの人は消えていってしまう。 繋ぎ止めたいのに、忘れたくないのに、滲んで消えてなくなる。 忘れることでしか、私は私でいられないのなら、もう私はいらない。 ……それでも聞こえる。 兄さんの聲が。 呼んでる。私を。 どうか呼ばないで。 振り返ってしまいたくなる。 どうかこのまま、逝かせて。 あの人と一緒に…… ふと気づくと、私は中庭の桜の木の下に立っていました。 しばらく茫然と立ち尽くし、それから深い深呼吸をしました。 ……そうだ、私、鬼の口へ引き返してこの中庭まで戻って来たんだ。 もう一度深呼吸してお堂に目をやると、扉が開いていました。 誰かがこの中へ入って行ったようです。 中には高峰さんのメモにあった月の井戸がありました。 井戸には縄梯子が掛かっています。 暗くて底は見えないけれど、メモの通りならここから地下へ入れるはず。 「…兄さん」 私は覚悟を決めて梯子を下り始めました。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |