その後、僕は友人から氷室邸の場所を教えてもらい、地方に伝わる伝承や噂を調べた。 伝承については詳しい資料もなく、あまり情報は得られなかったが… 住んでいた一家が行方不明になるなど、幾つかの事件を知ることが出来た。 その事件と高峰先生達の失踪について何らかの関わりがあると見た僕は、友人から聞いた手掛かりをもとに氷室邸へ行くことを決意した。 「深紅、高峰先生の足取りが掴めたよ。どうやら氷室邸という屋敷に向かったらしい。」 そう玄関前で深紅に告げると、彼女は何故か表情を強張らせた。 「これからその屋敷へ行ってみようと思う。」 「!」 「きっと先生はその屋敷にいる。……そんな気がするんだ。」 そう僕が言うと、深紅は慌てて僕の腕を掴んだ。 「行かないで!!」 「!?」 「行っちゃだめ、兄さん!」 「深紅?」 驚く僕に深紅はなおも行かないで、と繰り返す。 「お願い、行かないで…嫌な予感がするの…。」 「?」 「お願い…兄さん!」 哀願するかのような深紅を見て、僕は何かを感じた。 上手く言葉で言い表すことは出来ない。 しかし妹がこんなことを言い出すからにはきっと何かある。 …何かが起こる。 そんな気がした。 だが… 「高峰先生は僕の恩師で色々とお世話になった人だ。放って置けないよ。」 僕はそう言ってすがるような妹の手を離した。 たとえどのようなことがあっても、高峰先生を見捨てることなど僕にはできない。 今の僕があるのは先生のおかげなのだから。 「先生を見つけたら、すぐ帰って来るから…。」 「…っ」 「…じゃあ…行って来ます。」 泣きそうな顔で僕を見る妹を、半ば突き放すかのように背を向け、僕は家を出て行った…。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |