Wheel of Fortune〜zero〜
□第二夜 夢幻

…それは、どこか懐かしい風景でした。


どこかの丘の上に立って、舞い散る桜の花びらを眺めていました。


吹き抜ける風はあたたかいはずなのに、どこか冷たくて…


ただ、泣きたくなりました。


それでも、必死に涙をこらえて、待っていました。


誰を待っていたのか…


それさえもう思い出せないのに。


どんなに強い風が吹いても、雨が降っても、私はそこを離れませんでした。


やがて桜の花が全て散って、冷たく白い雪が降ってきました。


それでも、私はそこを離れたくなくて…


逢いたい。


逢えない。


忘れたい。


忘れたくない。


相反する想いの中で、ただ待ち続けていました。


もう待ち人が来ないことを知っているのに、それでも…。


そのときふと場面が変わり、いつの間にか私は大きな台座の上に両手、両足を固定されて仰向けになっていました。


台座の周りには巫女姿の四人の少女が座っていて、その手には杭と木槌が握られていました。


すっと少女たちが手を伸ばし、ひんやりとした杭が手のひらに触れました。


そして…少女たちがいっせいに木槌を振り上げ……


「!」


跳び起きると、そこは人形がたくさん並んだ部屋の中でした。


「夢……?」


そのときふと足に違和感を感じて、私は下に目をやりました。


「そんな…!」


両足首に手首と同じ、縄の跡が浮かび上がっていました。


キリキリと締め付けられるような痛みを感じます。


「どうして……」


そう呟いたとき、棚の人形のそばに挟まっている紙に目が止まりました。


"兄の書置き"

屋敷内で先生の物と思われるメモを発見した。

やはり高峰先生はここへ来たようだ。

玄関近くの廊下で白い着物の女性を目撃し、気がつくとこの部屋にいた。

この屋敷は他とは違う得体の知れない不気味さを感じる。

私の身にも何が起こるかわからない為、これを書き残す。



「兄さん…!」


やっぱり兄さんもあの白い着物の霊に襲われて…


兄さん…どこにいるの?


「とにかく早く兄さんを探さないと…」


私は転がっていた射影機と懐中電灯を拾い、部屋を出ました。

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