…それは、どこか懐かしい風景でした。 どこかの丘の上に立って、舞い散る桜の花びらを眺めていました。 吹き抜ける風はあたたかいはずなのに、どこか冷たくて… ただ、泣きたくなりました。 それでも、必死に涙をこらえて、待っていました。 誰を待っていたのか… それさえもう思い出せないのに。 どんなに強い風が吹いても、雨が降っても、私はそこを離れませんでした。 やがて桜の花が全て散って、冷たく白い雪が降ってきました。 それでも、私はそこを離れたくなくて… 逢いたい。 逢えない。 忘れたい。 忘れたくない。 相反する想いの中で、ただ待ち続けていました。 もう待ち人が来ないことを知っているのに、それでも…。 そのときふと場面が変わり、いつの間にか私は大きな台座の上に両手、両足を固定されて仰向けになっていました。 台座の周りには巫女姿の四人の少女が座っていて、その手には杭と木槌が握られていました。 すっと少女たちが手を伸ばし、ひんやりとした杭が手のひらに触れました。 そして…少女たちがいっせいに木槌を振り上げ…… 「!」 跳び起きると、そこは人形がたくさん並んだ部屋の中でした。 「夢……?」 そのときふと足に違和感を感じて、私は下に目をやりました。 「そんな…!」 両足首に手首と同じ、縄の跡が浮かび上がっていました。 キリキリと締め付けられるような痛みを感じます。 「どうして……」 そう呟いたとき、棚の人形のそばに挟まっている紙に目が止まりました。 "兄の書置き" 屋敷内で先生の物と思われるメモを発見した。 やはり高峰先生はここへ来たようだ。 玄関近くの廊下で白い着物の女性を目撃し、気がつくとこの部屋にいた。 この屋敷は他とは違う得体の知れない不気味さを感じる。 私の身にも何が起こるかわからない為、これを書き残す。 「兄さん…!」 やっぱり兄さんもあの白い着物の霊に襲われて… 兄さん…どこにいるの? 「とにかく早く兄さんを探さないと…」 私は転がっていた射影機と懐中電灯を拾い、部屋を出ました。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |