高峰先生の失踪を知ってから、僕は心当たりを片っ端から当たった。 しかしどこにも先生の姿はなく、その行方を知っている者も見つからなかった。 何の手掛かりも得られぬまま十日が過ぎ、僕は最後の望みを懸け城聖大学へと向かった。 城聖大学は僕の母校であり、高峰先生も講師として招かれたことがある。 また、講師の一人に高峰先生と同じ故郷の生まれで付き合いもある人がいる。 彼なら何か知っているかもしれない。 そう思ったのだ。 食堂で講義が終わるのを待っていると、終了のチャイムが鳴り、生徒が続々と食堂に集まって来た。 つい最近まで僕も同じような生活をしていたのだが、卒業してしまうと遠い世界のように思える。 そんな懐かしさと寂しさを感じつつ入口を見ていると、民俗学講師の竹内多聞先生が入って来た。 「竹内先生。」 僕は慌てて駆け寄り挨拶をした。 そしてさっきまで僕が座っていた窓際の席へと移動し、腰を下ろした。 普通こういう場合は少し世間話でもしてから本題に入るのだろうが、竹内先生は…少し変わっている。 「雛咲か。…何だ。」 席に着いて一息つく間もないまま、先生はそう僕に訊いた。 「あの…高峰準星先生のことで…お聞きしたいことがありまして…。」 僕は少し焦りながら事情を説明した。 高峰先生の失踪のことは竹内先生も知っていたようで、特に動じる様子もなかった。 最も、先生が動揺を露わにするところなど、一度も見たことはないが。 「…氷室邸…。」 「え…?」 しばらくの間腕組みをして考え込んでいた先生はポツリと呟いた。 「彼が失踪する数日前、大学を訪れ、私が以前調査していた"氷室邸"について教えてくれと聞かれたことがあった。」 「氷室邸…?」 「皆神地方の南にある屋敷だ。かつては地方を納める地主の家だったらしいが、今は廃墟になっている。」 「そこへ高峰先生が向かったのですか?」 「次回作の為の取材だと言っていたが、詳しい事は聞いていない。」 「……。」 「皆神地方には天倉の実家がある。わからなければあいつに聞いてみるといい。」 天倉というのは彼の以前の教え子で、僕の友人だ。 彼は民俗学に詳しく、作家として様々な知識を持っている。 彼に聞けば、何かわかるだろうか? 僕は竹内先生にお礼を言い、氷室邸という屋敷の名前を手帳にメモして大学を後にした。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |