廊下のつきあたりの部屋に入ると、奥に書斎がありました。 長い間使われた形跡はありませんが、机の上には一冊の日記が残されていました。 "古い日記" 屋敷内は一通り調べたが、兄の手掛かりは何も掴めないまま。 屋敷内には様々なからくりが施されているが、中でも中庭にある月読堂というお堂のからくりは、何か重要な意味を持っているらしい。 しかし、氷室家の血が絶えた今ではそれを知る術はない。 残された書物によれば、仕掛けを解くには氷室家当主の証が必要らしい。 そういえばお堂の台座には何かをはめ込むくぼみのようなものがあった。 「中庭のお堂…?」 日記を閉じて書斎を出ると、さっきまで閉じていた奥の扉が開いていることに気づきました。 近づいてみると、そこは部屋ではなくて、月見台になっていました。 下に中庭とお堂らしき建物が見えます。 その向こうには大きな池があるようです。 「…?」 ふと見ると、桜の木の下に人影がありました。 着物を着た長い髪の女性が立っています。 ここからでは顔はよく見えませんが、若い女性のようです。 女性はしばらくの間そこに佇んでいましたが、やがて池の方へ去って行きました。 階段廊下から一階に下り、中庭に出ると、冷たい風が頬にあたりました。 ひらひらと桜の花びらが風に舞っています。 幻想的で美しいけれど、どこか悲しげな雰囲気がありました。 ここが廃屋だからか、それともさっきの女性の姿が思い浮かぶからか…。 ふと見ると、女性が立っていた辺りに古い書置きが残されていました。 "女性の書置き" 氷室のお屋敷はとても静かで、誰もいない様です。 だけど時折誰かに見られているような…何者かの気配を感じます。 ここは何だかとても恐ろしい。 兄さんはご無事なのでしょうか。 あの方も…。 「兄さん…?この人も…私と同じなの?」 私はちらりと奥の扉へ目をやり、少し不安に思いつつもそちらへ近づいて行きました。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |