玄関から外に出て、長い橋を渡って行くと、どこか懐かしい村の中に出た。 けれど、人の気配はどこにもなかった。 無人の村の中を進んで行くと、あの少年たちが坂道を上って行くのが見えた。 後を追うように僕も坂道を上って行くと、見覚えのある丘の上に出た。 丘の中心には大きくて立派な桜の木があり、その下に一人の女性が立っていた。 桜模様の着物を着た、髪の長い美しい女性。 まるで誰かを待っているかのように、ただじっと桜の木の下に佇んでいた。 僕はしばらくの間その場に立ち尽くしていたけど、女性の待ち人は現れなかった。 辺りが薄暗くなって、月明かりだけになっても、女性はその場を離れようとはしなかった。 来るはずのない待ち人を、ただずっと待ち続けていた。 ……わかっているはずなのに。 どんなに願っても、どんなに待ち続けても、もう待ち人が来ないことを、彼女は知っているはずなのに。 それでも、彼女は……… 「!」 はっとなって辺りを見回すと、そこは中庭だった。 両足に縄の跡が浮かび上がっているのを見て、我に返った。 「そうだ、僕は確かあの白い着物の女性に襲われて……。さっきのは何だったんだ?夢?」 見慣れない屋敷と、桜の木がある丘。 双子の少年と、桜模様の着物の女性。 あれは一体何だったのだろうか。 「…いや、今はとにかく先生を探さなくては……」 そう自分に言い聞かせて顔を上げると、着物の男性が池の方へ消えていくのが見えた。 前へ 次へ [しおりを挟む][戻る] |