小説 | ナノ









眠たいなーって気持ちがふわふわしてた。今日はぽかぽか陽気。日差しが優しく暖かく体を包み込む。窓際の一番後ろの席って最強。けれど退屈な授業が今日も始まる。やだなあ、サボりたい。そんなことしないけど。いきたい大学のこと考えたらそんなこと出来ないし。あーなんか楽しいこと起こらないかな。とびっきりサプライズな、そう、サプライズ!!

けれど教室に入ってきた教師を見て一気に現実に引き戻される。げんなり。一時間目何だっけ…英語?もう最悪。いや出来るけど。教えてる奴が嫌い。



しかし今日はいつもと勝手が違うようだ。ちょっと入って、と廊下にいる奴に催促している。ざわつく教室。おや?おやおや?この展開は。



「えー、転校生を紹介する。白竜君、入りなさい。」


何の迷いもない足取りで入ってきたのは、とっても目立つ転校生。まず思ったこと。目つきが鋭い。そして思ったこと。近付きがたいオーラ。三つ目。なんだこいつ、無駄に格好いい。そして最後に。転校生の癖に堂々としすぎ。


名前を黒板に書き(物凄く字が綺麗だ)指定された席に向かう。って、指定された席って、僕の前の席じゃん、か。自己紹介とか無いの?そんなもん?
お隣の女子の赤い顔が視界に入る。あー、女子の好きそうな顔してる。確かに。視線を物ともせずずかずかと歩いてきて席に着く白竜…くん。こいつには自分が転校生だという意識がないんだろうか。大物になりそうだ。


一時間目、英語。問題を当てるような教師ではないので特筆すべき点は無し。
二時間目、古典。これも黒板に書かれていることを写すだけなので無し。


三時間目。体育。テニスだったのだが、何故かペアになってしまった。いつも一人でいたのが祟ってしまった。まあいいか、きた球を打てば良いだけだし。こぼれたら転校生に任せればいい。と、いうことで相手もそこそこ運動神経のいい奴等だったのだが目が怖い。僕じゃなくて転校生を見ている。まあな、かっこいい奴は問答無用で嫌だよな。うん。だからって僕を巻き込むな。
向こうは最初から転校生狙いだったようで、転校生目掛けて強烈なサーブを打った。あー、知らん。勝手にやってくれ。とため息をついた瞬間、物凄いスピードで何かが横切った。

ギリギリのラインの内側で跳ねて勢い良く金網に当たるボール。恐る恐る振り向くと、ラケットを振った直後の姿勢のままの転校生がいた。束ねた長髪がなびいている。…画になる。

きゃああ、と女子のいるコートから黄色い声が響く。

唖然としている相手、男子勢。勿論僕も含む。もしかして、とんでもない奴がウチに転入してきたんじゃ。



結果は圧勝。因みに僕は一回もボールに触れていない。コートでばかすかばかすか打っていたのは転校生だけだ。相手なんてなんとか返しても甘く入った球を強烈にスマッシュされて終わり。テニス経験者なんだろうなあ。ゲームが終わり汗だくで礼をする転校生の格好良さといったら。輝いている。ついでに女子の笑顔も輝いている。白竜くん白竜くん!よかったらタオル使って!
女子に囲まれて校舎に帰ってゆく転校生(美形)。あー、なんか一波乱起きる感じ。絶対男子の反感買った。


サプライズ、きちゃったな。こういうのを望んでいたんじゃないよ神様。ノーサンキュー。








何週間か行動を観察した上での転校生の特筆すべき点。
テニスに限らず運動全般出来る(昨日の体育は剣道だった)。勉強も出来る(流石にがり勉ほどでは無いが人並み外れていた)。昼休みはこつ然といなくなる。現代文が嫌いなようだ(たまにかくかく船を漕いでいる)。話しかけられても高確率で無反応。行事は基本的にサボる。女子に全く興味なし。

なのに女子も懲りずに構うから男子の怒りのボルテージも上昇中。そして少数の僕のような傍観者。クラスは微妙な団結力をみせていた。


昼休み、教室で束の間の休息をだらだらとクラスメートととる。いちごミルク、なかなかおいしい。くせになる。
ばりばり、と隣から市販のパンの袋を開ける音がした。うーんピザパン。美味そう。



「あれ、シュウ弁当は」

「へ?早弁」

「えー弁当だけで足りんのかよ!信じらんねえ」

「だって頭使ってないしなー意外といける」

「俺は何もしなくても腹減るけど」

「バッカ、お前は弁当食いに学校来てんだろ」




ぎゃはは、と男子特有の笑いがこだまする。心地好いんだよな、結構。大人数ってのは賑やかでいい。ぐじゅじゅ、と音を立てていちごミルクのパックがへこむ。えー、もう無くなっちゃったのか。残念。
話題はいつのまにか転校生のことになっている。



「そういやさー白竜さ、あいつ意外と地味な色のカーディガン着てんのな」

「別に黒って地味じゃなくね?」

「あいつならピンクとか着そうじゃん、変人だし」


あ、嫌な流れだ。女子の視線が痛い。僕は席を立ち、もう一本買ってくる、と潰れたパックをひらひら揺らした。お前も好きな、と茶化されたが君達もね、とは返せなかった。流石に。
ごみ箱にパックを投げ捨てた。




いちごミルクを買った後教室に帰るのが嫌で屋上に向かうことにした。誰もいないといいなー、いやいるな。絶対。
案の定転校生のふわふわ揺れる髪が目に入った。まあお約束。
今まで屋上で昼休みを過ごしていたんだな。何となく物悲しくなった。雨の日はどこにいるのだろう。




向こうもこっちに気づいたようだった。ちら、と目だけ動かし僕を見るとフェンス越しに空を見る。僕は何も言わず転校生の隣に座った。避けられたらショックだなと思いつつストローを外す。開口にさしていちごミルクを啜ってみるが、なんか…室内と味が違った。


転校生は動かない。転校生の方を見てみると、転校生は空ではなく僕の手の中のいちごミルクを凝視していた。まるで金銀財宝を見る目だ。
思わず、声をかけていた。


「の、飲む?飲みかけでいいなら」

「…美味しいのか?」

「君には甘いんじゃないかなあ」

「甘、い」


転校生がぼんやりと呟く。なんだ飲んだこと無いのか。変わってるなあ。今更だけど。
はい、とパックを渡すとじゅーっと転校生がストローを啜る。その様子が普段の転校生とあまりにもかけ離れていて噴き出しそうになった。



「おァ、甘い」

「だろうね…」

「男っていうのはこんなのが好きなのか」

「僕が変わってるんだよ」

「そうだろうな、俺に話しかけてる時点で」



おや、と思った。本人も嫌われていることは自覚済みらしい。全然気にしていないようだが。




「いいのか、こんな所にいて。お前まで嫌われるのはどうかと思うぞ」

「そんなんで嫌われるんだったら、皆とはそれまでの関係だったって事さ」

「…やっぱりな、お前、俺よりも冷めてる」



知ってるよ。冷めてることくらい。いくら平和が好きで、賑やかなのが好きで、楽しくてのんびり出来るのが好きだったとしても、根本では人と仲良くできていない。知ってる。僕は人間が好きじゃないから。冷めた目でしか見れないから。




「面倒臭いんだよ、揉め事がさ」

「ああ、嫌いそうだ。何か重要なこと決めるの嫌だろ」

「ああ、他人任せにしたくなる」

「やっぱりな」



じゅー、と我が物顔でいちごミルクを飲み続ける転校生。持ち主目の前にいますよ。



「甘いんじゃなかったの」

「いや結構美味しくて」









転校生、もとい白竜は変な奴だった。屋上の階段で躓いて落ちそうになったり、ぼーっと食べかけの弁当を見ていたり。時々フェンスに寄りかかって寝ていたり。完全に横になって爆睡していたり。俺、究極を目指しているんだと告白されたり。ギャップが激しすぎて正直ついていけない。
こちら側を見せたら男たちも寄ってくると思うんだけどな。





「あ〜きもちい〜…日向ぼっこやばい」

「てんごく〜ゴッドエデン〜」

「何それ」

「前いた学校の名前」



変わった名前の学校もあるものだ。なんか名門っぽいね、と言ったら白竜の顔が引き締まった。頭上では相変わらず雲がのんびりと漂っている。



「全てに“完璧”を求められる学校だった」

「だから君はそんなに色々出来るんだね」

「……出来るように、見えるのか」

「え、うん」

「まやかしだ。そんなの、常識を知らない機械をつくりあげているに過ぎない。だから俺は脱走したんだ」

「だ、脱走?」


なんかとんでもないことを聞いてしまったような…。



「完全寮制だったから、逃げるのには苦労した。」



白竜は真面目な顔で呟く。とても信じられるような話ではない。けれど白竜が言うんだったらそうなんだろうなーと、何故だか納得してしまった。嘘をつくような性格ではないだろうし、そんな嘘をついて何になるというんだろう。兎に角、信じてあげたい気持ちになったのだ。




「あの学校で俺はとある奴とナンバーワンを競っていた。…今頃どうしているんだろうな、あいつは」




さわさわと風が吹く。ミステリアスな転校生は、やっぱり色々な問題を抱えていた。




「見つかったら、連れ戻されるんだろうな、やっぱり」

「うーん、やだな」

「…え?」

「白竜面白いから、ずっと此処にいてほしいよ」



白竜は目を丸くして僕を見てたけれど、やがて嬉しそうに目を細めた。機械なんかじゃないよ、君は。立派な感性を持っているじゃないか。




「…普通の学校は、楽しいな」

「君も人と積極的に関われば、もっと楽しい日常を送れると思うよ」

「そ、そうなのか。」



白竜は人とどう接すればよいのか分からないらしい。敵意を持たず人間関係を築く事がほとんどなかったそうだ。
競争に勝利することでしか自分を主張出来ない世界なんて、想像がつかなかった。平和なんだな、本当に。




「なら、僕が手伝うよ。もうすぐ体育祭もあるし、皆で盛り上がればいい感じだよ、うん」

「あ、あり、ありがとう…」

「どういたしまして。あ、ちょっと先戻るね。委員会に顔出してくる。」

「ああ」



屋上を出て、いちごミルクを購入。ストローを開口にさして啜る。委員会に持ってったら怒られるかな、やっぱり。いつもの癖で買ってしまった。
仕様がないので教室に寄って一旦いちごミルクを置いていこう。そう思って教室に足を踏み入れると、異様な空気が漂っていた。

女子と男子の対立が起こっている。今まで表立ったものは見たことがなかったのに。そして窓際の後ろから二番目の机がひっくり返って、教科書が散乱していた。



「何やってるの!?あんなの苛めじゃない!」

「ろくにいない奴のことなんてどうでもいいじゃねーか!ちょっと痛い目みてもらわなきゃ自分の立場わかんないんじゃねーの」

「立場って、そんなのあんたたちがつくるもんじゃないでしょ!」




騒音、そして騒音。あー、あー、あー、やめろやめろやめろ。僕は傍観者。傍観者。
いちごミルクはいつの間にか飲み干してしまっていた。ごみ箱に放り込む。なんか、色々と面倒臭いことが増えた。
男子の一人が白竜のバッグを持ち上げ窓の外へ腕を出す。女子の怒声。あー、あー、あー、面倒臭い。
ばかみたいに、さわいでんじゃ、ねえよ!


机の上にジャンプして、机から机に飛び移る。そして飛び降り窓際でたむろしてる男女を避け、足に思い切り力を込めて空手でバットを折るような感じで、バッグを持っている男子の脇腹に思い切り脚を叩き付けた。
衝撃に耐えられず男子は吹っ飛び、後ろのロッカーに激突。僕は慌ててバッグを回収。
静まり返る教室。あー、やっちゃったやっちゃった。冷や汗が頬を伝った。頬が引きつる。


白竜よりも男子よりも先に、まずいきたい大学にいけるのか、僕は心配になった。あー白竜のせい。あと馬鹿な奴のせい。覚えてろよ。停学処分なんて食らったらどうしてくれんだ。今まで真面目に生きてきたのに。

僕はクラス中に聞こえるくらい、大きなため息をついた。















続きます







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -