小説 | ナノ






※二人とも普通に学校通ってるっぽい









「遊園地…?」





まるで初めて聞いたかのような反応の白竜。だがそんなはずはないだろう。ついこの間絶叫マシーン特集の番組を一緒に見ていたのだから。つまり、ただ単純にこの男は行きたくないのだ。




「うん、行こう遊園地!」

「却下だ」

「どうしてさー!!」

「それなら!サッカーの練習をしていたい!」

「たまには…たまには一緒にデートくらいしてくれたっていいじゃない!」

「うぐっ…」




幸い、恋愛関係の単語を出されると白竜は弱い。基本的に僕に嫌われたくないと考えてくれているのか、恋人としての時間を大切にしてくれているのか、そういうことに関してはとても寛容になってくれる。引き合いに出してみるものだ。




「…い、行ってやらんこともない」

「やったー!白竜大好き!」

「なっ…うるさい!うるさい!」













「暑い」

「暑いな…帰るか」

「アイス」


じりじりと、日照りが地面を焦がしている。
遊園地に入ったのにもかかわらず園内を出ようとした白竜の服を掴み、休憩所に直行する。やっぱり帰りたいらしい。入場料を払ったのだからもう腹を括ってほしい。
冷たいバニラアイスを頬張っていると、向かいに暑さでだらける白竜の姿。シャイニングドラゴン形無しだ。最近は日射病に考慮して室内での練習が多いので日に当たることに慣れていないのかもしれない。こんだけアルビノみたいに白いんだもんな。



「ウーパールーパーみたい」

「俺が、か…?」

「えっ聞いてたの…独り言だから気にしないで」

「聞き捨てならん。」




ムスッとした顔で睨み付ける白竜。うーん、機嫌がよろしくない。ウーパールーパーかわいいじゃん。少し溶けかかっているアイスを一口分スプーンで掬って白竜の眼下に突き出す。が、当の本人は横を向いてしまった。



「いらない。帰りたい。」

「デート」

「………。」

「僕は白竜と二人で出掛けることが出来て嬉しいんだけどなー僕だけなんだなー」

「…さ、さっさと食べてコーヒーカップ行くぞ!」




本当に、扱いやすくて困る。実は白竜も嬉しいんだよね。












「なんか…すごくゆっくりじゃないか…?」

「ここ、回すんじゃない?」

「こうか!」

「そう、そうそうそう!ひゃー!はやーい!」

「わわわわわわ」



ということでコーヒーカップに乗っているのだが、周りでゆっくり回るカップに混じって高速回転するカップが一つ。ゆっくり回転するカップに乗ったカップルが物珍しそうにこちらを見ていた。一瞬だけ、目が合ったような気がする。なんかすみません。
段々気持ち悪くなってきてギブアップを宣言するもなかなかカップは止まらず、どうしようもないくらい具合が悪くなってしまった。


カップから降りても、二人とも無言。アトラクションの話題に触れることなく、二人はさっき座っていた休憩所を目指していた。足はもつれてふらふらふらふら、居酒屋帰りのサラリーマンのようだ。





「……気持ち悪いぞ。」

「うん、うん、…うん」

「帰る」

「やだ。……オエェブ…」

「………。」



暑い。し、気持ち悪い。休憩所に戻ってきても暫くどちらも口を開かなかった。
しかし体調が回復したのか暫くして白竜が話しかけてきた。



「なかなか…遊園地というものはハードだな…」

「…そうだね」

「精神を鍛える特訓になるかもしれない」

「そうだ…ね?」

「行くぞ。今度はバイキングだ」

「え、うそ」




僕まだ気持ち悪いんだけど。けれどキングオブ自己中の白竜に僕の気持ちが届くわけもなく。さっきとは反対の立ち位置になり、白竜は意気揚々と、僕は引きずられるようにして少し休憩場所から離れたバイキングを目指した。
特訓だと意気込んだ途端、白竜はとても笑顔になりすごく楽しそうだ。何でだよ。僕とのデートとしての名目は皆無なのか。引きずられたままぼやいた。


何の迷いもなく、白竜は僕を連れてバイキングの一番後ろの(一番高く上がり一番怖い)席に座る。酔いが抜けないまま白竜の隣に座ると白竜は鼻歌を歌っていた。いい加減にしろ。



「あのさぁ…僕とのデート…うぶっ」



急にガコン、と揺れだし思わず吐きそうになってしまった。最初は僅かな揺れだったのに後の方は振り子のように揺れる揺れる。叫んだら吐きそうだったので叫ばなかった。うわあ頭の中が揺れる。脳みそが移動してる。そして隣の奴はというと。



「なるほど…ここから急降下で加速をつけ化身を出した状態でボールを蹴れば威力が上がるぞ…」



技の研究をしていた。デートなど何も関係ないようだ。しかもとても楽しそうだ。
ちょっと白竜!と罵声の一つでも浴びせてやりたかったのだが喋ったら以下略。










「あー楽しかったな!」

「…………。」

「…シュウ、顔色悪いぞ?」

「…っこのすっとこどっこい!!」

「は、はい!?」

「もう一生サッカーとデートしてなよ!白竜なんて知らない!」




何回も呼び止められたが振り向くことなく歩いてゆく。…どこに向かって歩いてるんだかも分からないが、とりあえず歩いてゆく。
何処だろうかここは。すっかり迷子だ。


…デートに誘うんじゃなかったかもなー。白竜にとってはここは遊ぶ場所じゃないんだ。
帰っちゃおうかな。でも置いて帰ったらすっごく怒るだろうなあ。でも白竜のせいだし。うーん。
ベンチに座ると途端に汗が噴き出してきた。あっつい。白竜と一緒にいると暑いことも忘れてたな。正常な思考力が削がれてゆく。ああ、もう帰っちゃおう。とベンチを立った。




「シュウ!」





白竜が息を切らして走ってきた。僕は白竜に背を向けて歩き出す。しかし白竜は僕の前に立ち、いや、立ったと思ったら土下座した。ちなみに人は物凄くいる。こちらを見ている。なんだこれ、見せ物か。暑さによるものではない顔の火照り。こんな公衆の面前で何やってんの!





「ちょ、ちょっと白竜!」

「シュウの気持ちを全く考えていなかった!すまん!恋人失格だ!」

「君声が大きいよ!」

「殴れ!殴ってくれ!」

「あああうるさいいいいちょっと!移動するよ!」




どうして僕の恋人はこんなに変人なんだ!群衆の好機の目に晒されながら全速力で走って先ほどの休憩所へ向かった。暑い。し、熱い。へとへとになって休憩所のテーブルに顔を押しつけると気持ちよかった。
白竜が僕の煮えたぎる気持ちをよそにバニラアイスを買ってきた。二つ。…二つ?
僕の目の前に一つ置かれた、ひんやりおいしそうなバニラアイス。かんかん照りの中、室内で食べるアイスはやっぱり極上だと思った。口の中に入った途端ふわりととろけるそれ。うーんおいしい。
煮えたぎる気持ちはどこへやら。いつの間にか僕たちの間には家にいるような和やかさが漂っていた。
白竜が大きく息を吐いた。




「俺たちにこういうところは向いてないな」

「だね。家でのんびりアイス食べてた方がずっといいね」

「そのあと夕方までサッカーの練習して」

「シャワー浴びてから棒つきアイス食べて」

「飯食べて」

「またアイス」

「…くっ」




目を合わせて、二人して笑ってしまった。人間、慣れないことはすべきではない。僕たちにとってはその日常がデートなのかなってちょっと思った。
どこに行くでもなく、君といることが大切なんだねって。



「ポテト食べよっかなー」

「こんなところで食べたら高いだろ」

「それもそうだね」

「…出るか、遊園地」

「うん」




白竜の指に自分の指を絡めると、急に白竜の手が熱くなった。顔まで真っ赤。
今はお昼時だし、こんな時間に遊園地を出る人も少ないだろうなあ。遊園地全く満喫してないしね。



「僕たち何乗ったっけ?」

「コーヒーカップと」

「うん」

「バイキング」

「ふふ、ひっどいね。せっかく遊園地に来たのにジェットコースター乗ってないよ」

「俺はジェットコースターに乗れない」

「えっ…ないわー」

「うるさい。怖いものは怖い」

「はは、やっぱり来るんじゃなかった」



意外。ジェットコースター特集結構楽しそうに見てたのに。
けど、まあいいか。学んだしね。おうちデートが一番僕たちに合ってる。結んだ手は少し離して、時々ふれあう程度に。
そのくらいが丁度いい。




「で、どこ行く?なんか食べる?」

「あー高いところは嫌だな。お金ない」

「最近近くにファーストフード店出来たじゃん」

「あーそこに行くか」

「締めはやっぱり?」

「バニラアイス」




かみ殺した笑い声が青く暑い空に吸い込まれた。

今日はまだまだ時間がある。どんな風に、何回君と笑い合えるかな。























リクエストで遊園地に行くシュウ白だったんですけど…楽しんでない上に遊園地ボイコット…
大人数で行ったら二人は誰かに引きずられてアトラクションに乗るタイプですよね。白竜が絶叫系だめでシュウはスピード狂だったらかわいいなって思ったんですけど活かし切れませんでした。うーんすみません…

リクエストありがとうございました。






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