吐溜 | ナノ





1.主♂N
2.インエメ
3.上下
4.レッドとヒビキ






1

永遠に相容れることのないこの深い暗い溝からの脱出を試みる。無理だろうな。だってどっちも間違ったことをしているなんていう、意識はないのだから。隣に座る黄緑色の長髪のオウサマはどれだけのニンゲンを憎み、ポケモンを慈しみ生きてきたのか。否死んできたのか。解るはずがない。他人の人生の十割を解る奴なんて存在しない。存在したら、それはこの星の崩壊の始まりであると思う。





「ボクは、そうだな…君のことは好きだよ」

「嘘つけ」

「本当だよ、だって君と話をするのは楽しいし」

「……」



俺、何も楽しい話してないんだけど。
繋がり合うことのない糸と糸が、触れて離れて。それでも俺はあんたを引き留めていたいよ。その瞳が真を映す日が来ることを信じて、叫び続けたいよ。


(もっと良い出会い方をしていたら、連れ去ってキスをしたのに)
















2


「インゴ、ちょっと、ゲホ、」

「何ですか」

「煙たい!煙たいよ!」



何でボクに向かって煙吐くかなあ!そんな事も気にせず黙々と灰になった先っぽを灰皿に落とすインゴ。ボクの言うことになんてちっとも耳を貸さない。ボクが煙草のニオイ嫌いだって知ってて、知ってるからこそ傍で煙草吸うし!




「あーもう最低、信じらんない、外道」

「今更なことを言う」

「っこのニコ中!肺ガンになっても知らないから!」




そういうとインゴはあからさまに不機嫌な顔をしてボクの首を掴んだ。いきなりの圧迫感に息が漏れる。ずい、と顔を寄せられた。首を掴んでいない方の手がゆっくりと、口から煙草を抜き取る。すっかり短くなった煙草は灰皿に押し潰され、惨めな姿になった。インゴの赤い舌が、一瞬見えた。




「誰のせいで、煙草を吸わざるをえない程ストレスを溜めていると思っているのですか。」

「…いた、い、」

「サボり常習犯の出来損ないの弟のせいに決まっているでしょう。解っているなら余計な事を言うな。解らないなら殺してでも解らせる。」




弟にこんな恐ろしいことを言う兄はそうそう居ない。しかも冗談ではなさそうなところがまた怖い。

ボクの首から手を離すと再び煙草に火をつけるインゴ。何でわざわざボクの隣で煙草吸うの。キッとインゴを睨みつけると目が合った。ふ、と笑う。煙を噴き出すソレをボクの首に当てる。ちょっと、それは、




「あつっ…!」

「ふ、」

「何笑ってんの、さ…!」

「いや?何というか、…そうですね」

「…?」




あつい。痛いよ。何してんのこの人。暫し考え込んだ後、インゴがこちらを向いた。



「マーキングとは、なんと心地好いものなんでしょうね、エメット」





ボクは、自分がティーカップを床に落とした音さえも聞き取れなかった。






(物理的な監禁は趣味ではないのだ)











3


「ノボリ、ノボリ」

「何でしょう」

「ボクオムライス食べたい」

「昨日も食べたでしょう」

「昨日は、オムライスにデンチュラ描いた。今日は、シビルドン描く」

「…駄目です」

「何でっ」

「今日は!わたくしは牛丼を食べると決めたのです!」

「やだ、オムライス、」

「いいえ!今日は牛丼にします!」

「やだ、」

「NO!」

「ふえ、」

「?」

「やだ!オムライスー!!」

「な、良い歳して聞き分けのない…ちょっとは兄の言うことも聞いて、」

「ノボリのばか!」

「は!?」

「ボクオムライス食べたいの!オムライスにお絵描きしたいの!」

「こ、の、我が儘!!」

「うるさい!ノボリのばか!だいっきらい!」











「…喧嘩して後悔するくらいならオムライス作って差し上げては…」

「………おいしい、牛丼屋を見つけたのです。予約までしたのです。」

「そう言えばよかったのでは」

「そんな事でオムライスを諦める弟ではありません」

(今回の喧嘩は長そうだなー…)





駅員の苦悩。











4


痛いほどに雨が降る。何を思い、何を感じ、何を悟れば頂上(ウエ)までゆけるのか。そればかりを考えて生きてきた。その結果伝説という言葉が纏わりつくようになった。先を急げば急ぐほど僕の後をついてくる人間が増えた。そのうち誰もついてこれなくなって、僕を目指す者が増えた。
何だろうか。僕は、何なのだろう。なんという、存在なのだろうか。





「ずっと、あなたに憧れてきた」



純真そうな目の少年が叫ぶ。後ろにつれたバクフーンが唸る。なかなか強そうだ。


「今日、あなたを超える」



綺麗な感情だ。美しい激情だ。だが悲しいかな、現実は常に苦しいものだ。




「…だ、」

「…はい?」

「君には無理だ」

「…何故ですか」

「僕に“憧れ”ているなら、僕を超えることは出来ない」

「、」

「何故なら、憧れを超えた先の世界は無いからだ。無だからだ。既に君は道を閉ざしているよ」




踵を返すと、僕のすぐ横を炎の渦が通った。振り向いて彼を見据える。バクフーンが興奮した様子で僕に吼えている。…なるほど、ね。引く気はないのか。




「超えてみせます、あなたを」



黄金の輝きを放つ目は怯えを知らない。
僕はベルトのボールに手をかけた。




「始めようか、伝説の戦闘を」




(見せてあげよう、僕のいかづちを)










BW2楽しみ。



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