浮き出た肩甲骨が俺の回した手をはねのける。俺はきっと剣城を抱き締めてはいけない。何故なら俺が剣城の悪い過去全てを知っている存在であり、剣城にとって邪魔な存在であるから。全て終わった後の空虚を何と埋めよう。こんなときシュウならフォローをしてくれたかもしれない。
本当はこんな抱き方してほしくなかった。独りでシャワーを浴びている時間が永遠のように感じられる。剣城の肌は岩肌のように俺を傷付けてそのまま全て飲み込んでゆく。何も無かったかのように、静かな水面を湛えながら去ってゆく。ずるい。俺を好きじゃないならこんなことはやめてほしい。何もかも損をして無くしてゆくのは俺だけなのだ。
「欲しいだけなら、」
「……」
「欲しいだけなら、別を欲しろ」
「何の話だ」
「俺は、お前にとって過去のものだ。何を今更掘り返しているんだ」
「………」
「お前には、もっといいものがあるだろう」
苦しいくらいに声が引きつった。剣城は、冷めた顔つきだった。いいものは、俺の手には入らない。静かに俺に言い放った。
そのとき初めて、こいつとは違う次元を生きているのだと知った。遅過ぎる悟りだった。
ラストインブルー/MELL