がたたん、と嫌な音がした。ひぃ、。声が引きつる。空気が震えて、足が動かなくなって、必死になればなるほど頭の中が真っ白になってゆく。恐ろしいほどに真っ黒なソレが暗闇の中にぽつん、と。俺を品定めして、ぐぱと口を開けた。
「タベル」
怪物が俺を飲み込もうと突進してくる。終わりだと目を閉じようとした瞬間、何かが俺を引っ張った。怪物は目をむいて俺を凝視する。
「タベル」
「走れ!!」
怪物のおどろおどろしい声と凛とした男の声が重なった。鞭で打たれたかのように俺は腕を引かれながら走り出す。怪物が追いかけてくる。
「タベルタベルタベルタベルタベルタベルタベルタベル」
「怪物を、見ないで走れ。」
男の声にひどく安堵感をおぼえた。
前を見て走る。暗い学校の中を、ひたすら。そのうち怪物の声は聞こえなくなって、俺たちは走るのをやめた。
「…は、はぁ、はあ」
「もうちょっとで頭からぱっくりやられるところだったな」
俺の手を引いていたのは男なのか女なのかわからない中性的な奴だった。学ランを着ているから多分男だ。
「あの怪物に食べられるのは、死ぬより恐ろしいことなんだ」
「何で…」
「怪物の一部となって、意識だけは残る。永遠に怪物の体の中で生きるのさ。生前の記憶を持ったままな」
そんなの、絶対にごめんだ。でもこのばかでかい学校からどうやって出ればいいのだろう。
「ああ、俺もこの学校に迷い込んだ一人でさ。…ちょうどいい。一緒に行動しよう。知恵は有るだけ心強い。」
知恵なんて、無いに等しいのだけれど。けれど仲間がいるのは精神的にもとても助かる。俺は承諾をして礼を言った。すると男はきょとんとしてから、からから笑った。
「はは、礼とかいいのに。此処から出たら何かおごれよ」
ここから霧野先輩とマサキの脱出模索が始まり、恋愛フラグとか死亡フラグとか立ちつつ霧野先輩は脱出出来ずにマサキをかばって死ぬと思います(…)