吐溜 | ナノ





俺は時々不安になって、居たたまれなくなる時がある。成長してだいぶ大人しくなったあいつの顔を盗み見る度、問い掛ける。
まだシュウのことが好きなのかと。




「ああ、好きだ」





艶やかな笑みは、本当は俺に向けるものではなかったはずだ。ゆっくりとつり上がる口元に手を這わす。が、こいつは矢張り俺のものではないのだ。手を離し、樹に腰掛けた。





「シュウがいなくなっても、思い出は消えない。」

「忘れるだろうに」

「……忘れるかもしれないな、でも」

「?」

「天国で、あいつはきっと忘れた俺に教えてくれるだろうさ。」





それから白竜はシュウの話をした。髪がとてもさらさらしていたこと、俺よりも毒舌だったこと、驚くほど大人びていたこと。白竜よりも、ずっと強さを求めていたこと。
黒い民族衣装を纏い、伝統的な舞いを披露してくれたこともあったそうだ。楽しかった、と白竜は小さく息をもらした。きっと華麗に踊るシュウを思い出しながら焦がれているのだろう。一瞬だった、二人の刻んだ時間を。






「今はあいつはいないぞ」

「わかってる」

「……。」

「剣城の言いたいことはわかるんだ。だが…すまない。」

「……世渡りが下手だな」

「お前に言われたくない」






いない存在ばかりを追い求めて、求めて、転んで、尽きる。
白竜の儚い笑みはシュウに届いていないのだろうと。終わったのだ。全て終わったのだから、仕方ないことなのだ。








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