「いだ、いです、」
色を無くした手首が悲鳴を上げている。苦悶する可愛い顔、嗚呼どうして。この顔だからこそなのか。ひいひい泣きべそをかく目の前の後輩に何も言えなくなった。
何故なら、いくら叱ったって彼には罪の意識は露ほどもない。
偶然。ほんの偶然だったのだ。休日神童と久々に買い物に出た帰り狩屋を見つけたことも、その隣に見知らぬ男を見つけたことも。それだけなら何てことない風景なのだが、二人の間には妙な空気が漂っていた。俺は疑問に思いながら二人の後をつける。
と、二人はどんどん怪しげな界隈に入っていくではないか。中学生が彷徨くには少々不味い場所だ。結局俺は追うことを諦め、二人は桃色の空気漂う道に消えていった。
どういうつもりなんだと狩屋に詰め寄ると、狩屋は隠すこともなく体を重ねたことをずけずけと話した。勿論チームメイトのいないところでの会話だったが、俺に衝撃を与えるには十分だった。
「何でそんなことするんだよ!気持ち悪くないのか!?」
「だ、だってお金貰えるし…」
「お金が貰えるからどうだっていうんだよ!」
狩屋は俺の態度にひどく狼狽えていた。俺の怒っている理由がまるでわかっていないらしい。狩屋の華奢なからだが、とても汚れて見えた。どぶ水にでも頭から突っ込んで沈めてしまいたいくらいに、きたない。
キタナい。
掃除用のバケツをひっつかみ、水道の蛇口を目いっぱいひねった。なみなみとバケツいっぱいに水が溜まり、そのバケツを、狩屋に向けて振り下ろした。
からんからん、と転がるバケツ。気持ち悪さと激しい動悸の所為で息が荒くなる。体中に雫を滴らせ、わけがわからないという目で俺を見つめたまま動かない狩屋に向かって言い放つ。
「汚い。」
便所にいる虫、痴漢の容疑で捕まった男、妊娠した女子高生、それらを見つめるような目で見下す。今狩屋に触れられたら鳥肌が立ちすぎて皮膚がかぶれるかもしれない。そう考えるほどに、全身が狩屋を拒否していた。
狩屋は何も言葉を発しないまま、濡れた自身の髪の毛をじっと眺めていた。
「剣城ー!パスパス!」
ぱたぱたとグラウンドを走り回る一年生はとても愛らしい。練習している様子は、本人たちは必死なのだろうが、和やかで微笑ましいものだった。
特に天馬や影山なんかは纏っている空気のせいなのか、こちらまで心が穏やかになる。後輩の健気にがんばる姿は先輩にも少なからず影響を与える。
それにしても、狩屋の状況は少しも変わらない。
救いも展開もなかったのでやめました…