(シュウ、どうだ見つかったか?)
(ううん…そっちは?)
(うーん、今んとこは…)
(そっか)
ハイライトの空は今日も広がっている。真っ当な人間の生活の幕開け。真っ当じゃない人間の休憩時間。大橋からは強い風が吹き荒ぶ。好きなんだな、この風が。
少し時間が立つと通勤ラッシュも終わり、街が活気付いてくる。天然石を置いている雑貨屋に入ると、ふと気になったコーナーがあったので近寄ってみる。
(魔除けコーナー…?)
じゃら、とブレスレットになった天然石を手に取ると、天然石がいきなり破裂した。ばらばらになって床に散らばる天然石の前で立ち尽くしていると慌てて店員が駆けつけてきて思い切りお辞儀をされ謝られた。すみません、不良品だったようですすみません。
うーん、僕が悪いからなあ。こういうものに触らなきゃよかった。つのる罪悪感。渋々店を出る。
多分神社とかお寺にも近付けないだろうなあ。そんなことを考えているとどん、と誰かにぶつかった。ってーな、と舌打ちをされたが気にせず通り過ぎる。今のは完全に向こうが悪い。のに、馬鹿だな。僕の肩を掴む。三人組の柄の悪い若い男だった。
「オイ、止まれよにーちゃん」
うっわー、絡んできた。凄く命知らずだ。面倒臭くてため息を吐いた。僕の仕草にカチンときたのか男が拳を振り上げた。
邪魔くさい。面倒臭い。
嫌だ誰か代わってくれ!
「サツに捕まりそうになった?何故またそんな阿呆な展開に」
「チンピラが殴りかかってきたから殴り返したら気絶しちゃったんだ」
「………。」
「偶然おまわりさんに見られて、事情聴取されそうになったんだけど。説明するの面倒だったから振り切った」
「それも犯罪だ」
「正当な防衛だよね?」
「俺に聞かれてもわからん」
完全に他人事だよもう。
…ところで、先ほどから薄い紅色の髪をした可愛らしい人が白竜の隣に座っているんだけど。
客人だろうか。
「…どなたですか?」
「あー、こっちは青銅だ。まあ、友達…なのか?」
「よろしく」
「よろしく!僕外にでた方がよかった?」
「いや、帰るから大丈夫。お邪魔しました」
青銅がぱたぱたと出て行く。華奢な体つきだなとぼーっと見ていた。
「青銅さんって白竜の彼女?」
「…男だぞあれは」
「え!すごいね!可愛い!」
「…まあ、それで稼いでいる部分もあるかもな」
「モデルさんとか?」
「んー…」
白竜が言葉を濁した。どう説明すればいいのか迷っているようだ。
「…シュウ、可愛くてもな、表舞台に出てこられるのはほんの一握りなんだ。大体が裏側に捕まる」
「…ふぅん?」
「青銅は、裏側の商売ってことだ」
「…よくわかんないけど、わかった」
僕に話を追及されずほっとしたのか、先程青銅に貰った包みをがさがさと開け始める。中から綺麗なお菓子が出てきた。
「…そういえばシュウは昨日から何も食べてないんじゃ…?」
「さっき出たとき食べたよ」
「そうか、きっとおいしいぞこれは。」
まあ食べたなんて嘘なんだけどね。元々栄養とかいらない体だし。
袋を開けて物色を始める白竜。お目当てのものが見つかったのか、袋を僕に渡してきた。
「小倉バターどら焼きは誰にも渡さん!!」
「心配しなくてもとらないよ…。ところでどれがおいしいの?」
「ここのお菓子はどれもおいしいぞ」
「迷うなあー…いちごプチパイ、にしようかな?」
初めて食べるという行為をするのだが、どうしたらいいのかわからない。どきどきしながらかぶりつくとパイの欠片がぱらぱらと落ちて白竜に汚い!と怒られた。
…やっぱり、味がわからない。味覚を感じ取る機能が備わっていないようだ。ちらちらと白竜が横目で感想を促してくる。
「お、おいしいよ?」
「そうかそうか!シュウはいけるクチか!」
「うん、…まあ」
「剣城はなー俺の好物の小倉バターどら焼きしか食べないから毎回戦争になる。」
「容易に想像がつくね」
もっと食え食えと袋を沢山投げられたが、勿体無いのでいらないと言った。僕が食べるより白竜が食べる方が余程有意義であることに間違いはない。
しかし…白竜は世話好きなのかもしれない。何だかんだ僕の面倒をよく見てくれるし。
「ねえねえ、白竜」
「何だ?」
「剣城とはどういう関係なの?友達?」
「難しい質問だな。…ううん、綺麗な関係ではないな」
「…そうなの?」
「…ああ」
無意識の行動なのか、白竜が鎖骨をなぞった。その行動の意味はよくわからないけれど、多分ぽろっと言えるような関係ではないんだ。
「好きなの?」
白竜の手が止まる。時計の針の音と、女達が夜の街に繰り出してゆく足音が聞こえる。
「もう好きじゃないさ、あんな奴」
「好きだったんだね?」
「う、うるさいな。過去の話だ」
「……謳歌してるんだね」
「何を?」
「この世界をだよ」
気が向いたら続きます