吐溜 | ナノ


ドM白竜の続き






一応、白竜が僕の恋人ポジションに収まった。プレイヤーとしては優秀な彼だが、恋愛面はてんで駄目な奴だ。あと性癖のせいもあってすごく付き合いづらい。たまにとんでもない要求をされることがある。そのたびに僕は神経をすり減らし、重い溜息を吐くことになる。そう、僕は白竜と恋人に至るまでの道のりで白竜に重大な勘違いをされているのである。
僕が、何をしても平気な鬼畜極まりない人物だと、思われているのである。



語弊だらけなので言わせていただくと、僕は人の体を傷つけることに心を痛めるごく一般的な人間である。だから前に白竜に骨折をさせてしまったとき(骨にひびが入ったらしい)本当に罪悪感がひどかった。しかし当の本人はケロッとしているどころかすごく嬉しそうなので自分がばかばかしくなってしまったのだ。こいつに哀れみを持つのはだめだ。自分に哀れみを持たなければ。
そんな調子なので白竜の扱いは日に日に悪くなっていくし、相手は嬉しそうだし、どんどん悪循環に陥っている。そして僕は鬼畜認定。もうどうしようもないところまできている。




「はあ、」



実際白竜といると疲れる。空気は読めないわ、気持ち悪いわ、どんくさいわ、恋人にならなければ見えない場所がたくさん出てくる。けれど、その中に愛しくてたまらない部分が見え隠れしている。例えば、恥ずかしそうに名前を呼んでくれる時。例えば、恥を忍んで抱きしめてくれる時。そのときは、僕たちは恋人なんだなと感じさせてくれる。しかし大体の二人の空気はこんな感じである。







「あのな、シュウ。頼みごとがあるんだが…」

「うん?何だい?ポジション整理とかチームメイトの体調のファイルはもう教官に渡したけど」

「いや、そうじゃなくて…」

「何だよ、はっきりしなよ」

「俺の、指を折ってほしいんだが」

「…はい」





白竜の人指し指の第一関節をくい、と手前に曲げる。痛いくらいに沈黙が続く。白竜がぴくりとも動かないので目の前で手を振ると、爆音のような怒号が響いた。



「ちがーう!!!!」

「うわ、何だよいきなり大きな声出すなよ!!」

「俺は!!逆に!!反対方向に!!折ってほしいんだ!!」

「えっ」



うわ何だそれは。想像しただけで痛すぎる。白竜の白くて綺麗に骨ばった手を見る。いや、いやいやいや痛すぎるだろうそれは。無理。絶対に、出来ない。いくらちょっといじめるのが好きだからって、ちょっとそれは。





「っていうか、サッカー出来ないだろ何考えてるんだ!」

「何で手なのにサッカー出来なくなるんだ」

「馬鹿!体勢崩した時体支えるのは手だろ!?」

「………。」




白竜が自分の手をじっと見つめる。そしてぽつりと、そんなこと言ったらどこも折れないと呟いた。なんてやつだ…。僕はこれから先こんな奴とどう付き合っていけばいいのだろう。溜息を吐くと白竜が頬をほんのり染めてこちらを見た。こんな状況下で喜んでるなんて、真性の変態だ。殴ったらもっと喜ばれるので、諦めて踵を返した。




とまあ毎日がこんな感じなので、僕の胃痛はひどくなる一方だ。何で付き合ってるんだろうとさえ思い始めてきた。手を上げても喜ばれるだけなので諭す手段が少ない。もう疲れた。ちょっと距離を置かないと、いつかすぐに彼に飽きてしまう気がする。




「シュウ」

「……」

「シュウ?」

「おい、大丈夫か…」

「疲れた」

「え、」

「ちょっと君と距離を置きたいんだ」

「俺、なにか…」

「君さ、僕を何だと思ってるの」



白竜を睨みつける。白竜は珍しく狼狽して、動揺の目をしている。何を今更、そんな目。僕はもっと君よりもっとそんな表情をしたいよ。心の中でずっとし続けてるよ。



「僕が君の指を意図的に折れると思ってるの?出来るはずないじゃないか、だって僕は君のこと好きなんだよ。好きな人の体を傷つけるなんて、僕には出来ない。だって、もしも自分がされたら、痛くて死んでしまいそうだよ」

「……シュウ…。」

「あのね、君のこと踏むことはいくらでも出来るよ。けれど折ったりすることはしたくない。サッカーに関わるんだよ。そんなのサッカーの方を優先するに決まってる。度合いがあるんだ。」

「………。」

「落ち着いて頭を冷やしてくれよ。だから、離れよう。」




彼がそういう好みで、どうしようもないことは知ってる。でもその矛先が僕にあるのは厳しいものがある。だから。

続きを話そうとして、白竜の顔を見るとぎょっとした。白竜はめいっぱい唇を噛み締め、泣くのを堪える様な表情をしていた。そんな顔を見るのは初めてなので唖然としてしまった。小刻みに震える体がひどく小さく見えて、思わず声をかけてよいものか戸惑った。




「えっ…と…」

「…いやだぞ」

「へ?」

「離れるなんて、嫌だ」



白竜は目をぐりぐりと擦って、僕の目を見た。真っ赤になった目とばっちり合ってしまって、つい目をそらすと手を掴まれた。そして、元気のない声でぽつりぽつりと言葉を紡いだ。




「最初シュウは俺に合わせてくれてるのかって思って。でも結局こっち側なのかって思って。でもシュウはやっぱりこっち側じゃなかった。」

「うん、否定はしない」

「でもいき過ぎたのが嫌なんだって、わかったから。」

「うん」

「シュウが俺を愛してくれてるってこともわかった」

「…うん」




掴んだ手が震えている。僕は掴まれていない方の手で僕の手を掴んでいる手を撫ぜた。白竜はびくり、と震えて泣きそうな顔で微笑んだ。また、垣間見えた。白竜がかわいいと、素直に感じた。よかった。自分の気持ちを話せてよかった。




「でも、シュウごめん。自分でもどうしようもなくなる時があるんだ。そのときは、ごめん」

「うん、わかった。」

「でも定期的に殴ってくれるよな、腹とか」

「……うん?」

「だって、体に痛みがないと変な感じして」

「………。」




こいつは、僕の話を聞いていたのか?




「一人でやれ」

「だ、だって好きな人にしてもらった方が気持ちいいだろ」

「何でそんなときにかわいこちゃん発動してんだよ!!!」

「かっ、かわいこちゃん…!?」




しまった口が滑った…。白竜は恥ずかしそうにちらちらこちらを盗み見る。あーもう、惚れた弱みってこういうことか。恐れ入った。
仕方ないので白竜の頬にキスを落とした。口にはしない。これでも結構怒っているから。でも白竜は嬉しそうだった。痛いことされた時よりもずっと綺麗な笑みで。
性癖がまともになればいいのにと、そんなことさえ考える。だってまともになればかっこよくてかわいい。おかしいところも多いけど。けれどここも込みで見てあげなければ。何たって恋人、なのだし。






「シュウは、やっぱりこういう俺は嫌いか」

「好きだよ」

「お前の好み、よくわからないんだが…」

「僕にそういうプレイを強要されると困るだけ」

「そうか」




さっきからそわそわと落ち着かなさそうだ。何か聞きたいことがあるなら素直に聞けばいいのに。
意を決したように白竜が口を開く。




「俺は、シュウから離れたくない。放置されるのだけは嫌いなんだ。」

「…へえ、そっか」

「だから、ずっと一緒にいてほしい」

「そうか、放置は嫌なのか」

「…エッ」


白竜のこめかみから汗が垂れる。勝ち誇ったように笑ってやるとわなわなと震えだす。馬鹿だなぁ、そんなに簡単に他人に弱みは見せちゃいけない。はあ、いつもそんな風にかわいければなあ、と思うけど現実そんなにうまくいかない。やっと白竜の弱点を見つけた。これで思い知らせることが出来る。君が優位に立つことなど不可能なのだと。




「じゃあとりあえず二日間、反省してもらおうか」

「反省って何だ…!」

「どきどきわくわく☆二日間恋人としての会話禁止我慢大会ー」

「え、い、嫌だーーー!!」






なんだかんだ言いながら、白竜はすごくかわいいんだなと再確認した。きっとどうしようもないところは直らない。ずっと変わらない。けれど、そこも惚れた弱みだな。甘やかしたくなる。








矛盾だらけで手に負えなくなったので没
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