吐溜 | ナノ







高校生って、自由だなって思った。トイレで隠れて煙草吸ってる奴はいるし、堂々とサボるし。
入った公立高校には、偶然剣城くんがいて。入学式が終わってばったり会ってから、あ、と思った。


背が高くて、眼光が鋭くて、顔立ちがいいからすぐに注目の的になった。そうだよね、剣城くんは昔からそうだった。皆の憧れだったもの。だから、今こうして剣城くんが俺の顎に手を添えているのも、親指を俺の唇に当ててなぞっているのも、全部夢だよね。そう、きっとそうなんだ。俺が泣きそうなのも全部全部幻。




「…嫌なのか」

「嫌じゃない、嫌じゃないけど、苦しい」

「何で?」

「剣城くんと一緒にいると苦しいよ。理由なんて分かんないけど苦しい」




眩しいから、嫌になる。明かりが怖くて、逃げたいのに。掴まれて、逃げられなくて。そう、それは街灯に群がる蛾に似ている。引き寄せられて逃げられなくなる、愚かで薄汚い蛾に。
それでも好きなんだ。人間って案外複雑に出来てる。親指が離れて、がつん、と衝撃を受けるようなキスをして。
高校生って自由だ。真っ昼間から授業をサボってこんなことしてるんだから。
剣城くんサボること多いのに、何故かテストの点数はいいんだ。損してるのなんて俺だけ。取りこぼされてるのは俺の心だけ。




「ピアスを開けたいんだ」

「そうか」

「でも自分でするのは怖いから、してほしいって思って、」

「…別に、いいけど」




こんな関係なのに、どことなく冷めている。そんな温度が心地好い。可愛げもへったくれもないこの関係に名前などない。けれど確かにそこに存在している。






ピアッサーを持つしなやかな手が、俺の耳に触れた。冷たく、けれど無機質ではないその手が耳に髪をかける。剣城くんだってピアッサーなんて持ったこと無いだろうに、こんなことをしてくれるなんて。



「いいのか、俺がやって。怪我しても知らないぞ」

「いいよ、それを承知で頼んでるんだから」






ばちん、と何かが削げ落ちた。一瞬だけずきりと痛かった。消毒液を吹き付けたガーゼを耳に当てると、少しだけ痺れた感覚。痛みはない。
開いた穴にするりと通されるピアスの針。右耳に水色のガラスの玉のピアスが光る。




「髪に隠れるけど、いいのか?」

「うん。ありがとう」





これでいいよ。ありがとう。














ピアスネタ絶対リベンジしてやる…ぐぎぎ…

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -