吐溜 | ナノ






例えば、ペディキュアだとかトップコートだとかを爪につける仕草。
例えば、恥ずかしいときに耳の後ろを撫でる仕草。
例えば、甘い物を口いっぱいに頬張り、幸せそうに咀嚼する姿。


全部全部僕のものだとか思うと、自然に顔がにやけちゃうよね。うん。
そんなことを考える、そよ風が吹くよく晴れた昼下がり。



「シュウ、顔、顔」

「えっ?何かついてる?」

「いや、すごく気持ち悪い」




そんなじと目されたって今の僕には一ミリも通用しない。だって!僕には!白竜がいるからね!
隣に座っているカイの眉間の皺が深くなっていくのは気にしないことにする。




「男の方が熱こもってると、女の方はすぐ冷めてくんだよ」

「えっ?知らない知らない白竜はそういうタイプじゃないし」

「皆そう言うんだよな…」



ため息を吐くカイを余所に窓の外を見ると体育の授業だったようで、ジャージを着た白竜が青銅と話しているのが見えた。白い肌と髪がとても目立つ。




「はー、白竜ほんとかわいい」

「…白竜選ぶくらいなら青銅選ぶわ」

「おー?おおおー?」

「いや期待するような目されても、そういう展開はないから」



窓から身を乗り出して手を振ると、白竜は気づいて振り返してくれた。はあー!かわいい!投げキッスを送ると顔を逸らされた。はあー!かわいい!青銅の冷たい目。そんなのは、僕には全く効果がない!




「はあー!かわいい!」

「ベタ惚れだねほんと…よくそのテンションで続くよね」

「もうね…はやく放課後にならないかなあ…いや休日にならないかなあ…いや結婚式まだかなあ…」

「聞けよ」

「うん聞いてる聞いてる…あ、」




白竜たちが帰った後で、次のクラスがグラウンドに出てきた。その中に白竜の元彼の剣城を見つけた。目を細めて刺すように視線を送ってみる。



「何、誰睨んでんの」



カイが身を乗り出してきた。こういう事には反応するんだからなあ。




「剣城京介」

「あいつがどうかしたの?」

「嫌い」

「いや見りゃわかるよ。何で?」

「白竜の元彼だから」

「ほー…へえ!?まじ!?」

「まじ」



カイがじろじろと剣城を見ている。まるで品定めするかのような目は、向けられたらさぞ居心地が悪いのだろうなと思う。けれどカイの口から漏れた言葉ば予想外のもので。




「うーん…男から見てもかっこいいと思うよ」

「……白竜とお似合いだって言ったら殺す」

「い、言わないよ!だって今白竜と付き合ってるのはシュウじゃない。気にしなくてもいいと思うけど」




すかさずそういう場面でフォローを入れてくれるのはカイのいいところだ。いい友達を持ったよなー。




「あーはやく放課後にならないかな」

「いや、だから聞けよ」



授業開始を告げるチャイムが鳴り響いた。恐ろしく平和に、日常がすぎてゆく。

















「…寄りを戻す?」



放課後、ファーストフード店で白竜と他愛のない会話をしていたときにふと剣城のことを思い出したので聞いてみた。我ながら言っちゃいけないことを言ったと、あとになって後悔。




「だって、私が振られたんだぞ」

「えっそうなの?」

「お前には付いていけないとばっさりな。だから可能性は皆無だ」



白竜が片手をひらひらと振る。へえ、二人の関係はそんな感じだったのか。言葉に表せない程度には安心した。
白竜が自分の爪に目を落とす。睫毛長いな。今更だけど。



「…そういえばトップコート切らしてたかもな」

「買ってあげよっか?」

「私の買ってるところのは、高いぞ?」



ふふん、と白竜が挑発的に笑う。こんな笑顔見られるなら別に千円とか二千円とか使ってもいいよね。今すごくカイに怒られそうなこと言ってるけどいいよね。だって白竜に弱いし。白竜は僕に頼ってこんなことを言っているわけじゃないし。単なる僕のエゴだし。





「…いつも思うんだが、そんなに私に貢いで金は底をつかないのか?」

「そんなにお金持ちに見える?」

「いや全く」

「そうでしょ?バイトしてるからねーこれでも」

「?…私と毎日一緒にいて、バイトする暇なんてあるのか?」

「あるんだなーそれが」

「気になる。そんな短期間で稼げる危ないバイトをしているのか?」



危ないバイトって…。どんな想像をされているんだろうか。僕が苦笑いをすると白竜は何を勘違いしたのか顔を真っ青にして僕の両手を握った。




「わ、私は大丈夫だ。だから白い粉を売るのはやめろ!シュウに何かあったら…!」

「売ってない売ってない!でかい声で何言ってんの!?」

「じゃあ何のバイトをしているんだ!聞くまで帰らない!」



が、頑固者…しかも掘り下げるんだ?でも手握ってもらえたからラッキーかも。うん、現金。



「魚をね、釣りに行くんだ」

「………は?魚?」

「川魚はお金にならないからパス。漁師に知り合いがいてたまに海まで乗せてくれるんだよね。釣った魚をあげてさ、平均的にこれで売れるだろうってお金をくれるわけ。お駄賃だよね。」

「へー…」

「カツオ釣ったことあるよ」

「カツオ!?すごいな食べたい」

「そう、だから別に危ないことはしてないよ。心配しないで。」




そっと手を握り返すと白竜は優しく微笑んだ。結婚したら趣味で釣りに行って大物穫って帰って白竜に料理してもらおう。完璧。



「ということで、買いに行こうか」

「…いや、いい」

「え?いらないの?」

「そんな大変な思いをして貰っているお金が、私の化粧品代に消えるなんて嫌だからな」



自分で買いに行く、と席を立つ白竜。うーん、やっぱり理由なんて話すべきじゃなかったかもな。これで白竜の大抵のものは買えなくなってしまった。


すたすたと入り口まで一人で歩いていく白竜をぼんやりと眺める。白竜をちらちら見る周りの男子高生を刺したい。
ふと、立ち止まってこちらを向いて行かないのか?という目で首を傾げた。鼻血が出そう。このまま僕が死んでも差し支えない可愛さだ。
トレーを持って、僕も立ち上がる。ふと、気になった。


剣城は白竜のどこに付いていけなかったのだろう。








リクエストいただいてたシュウと白竜ちゃんだったんですけどあまりの展開の進まなさと私の想像力のなさで没になりました。
違うの書きます…。



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