ひたすら口を吸い合う小十佐





―こいつは、口吸いがどうやら嫌いらしい。

近づく互の顔、口元に、強張らせる身体に、小十郎は眉間の皺をより深くする。
無理矢理に後髪を引っ掴み、抵抗する腕を、背を、逃げられないように己の腕に抱き込んでしまえば、それでも諦めることなく薄い唇を噛み締めて最後の抵抗をしてみせる。
その姿はいじらしいというべきか…往生際が悪いというべきか……。
こめかみに汗を浮かばせながら―冷や汗というやつだろう―泣きそうに眉根を寄せて瞼を固く閉じる。

「ぉ俺様、口吸いは苦手なんだってば……」
「てめぇ、いつになったら慣れやがんだ」

呆れをそのまま言葉にする。声音は気を抜いた風だが、しかしその腕はさらに力が込められた。
初めてまぐわった際にもすすり泣くように訴えてきたこの忍、生娘と思わせるほどに、その唇は震え、赤く湿る舌は咥内を逃げ回り、ずいぶんと長いこと……佐助が息を吸うことも吐くこともできず気を遣るまで貪るはめになったものだ。

両手に余る程度に重ねたこの行為だが、いまだ佐助は慣れない。
ぎゅう、と噛み締められた唇を、口角からねっとりと舌を這わせ、温度の高い小十郎の直接的な熱に堪えきれなくなるまで繰り返す。
早く開けろ。
敢えて視線を合わせずに、柔いまま何度も何度も。口角の窪みから下唇を辿り、反対の窪みをくすぐるように動かすと、上唇には舌全体で、ぐに、と柔いながらも刺激を与えながら戻る。
佐助の喉が震えれば、それが降参の合図となり、おずおずと開かれるのだ。

「…んぅ…ぐ……っぅ」

苦しげに漏れる音には色気も何もないのだが、健気に小十郎の袖を握る手甲がギリ…と鳴るのは嫌な気はしない。
掴んだ髪をまだ引っ張れば、開きかけた顎はさらに開き、乱暴な舌を受け入れさせられる。
肉厚なそれは佐助の口蓋をくすぐり、逃げる舌を執拗に追いかけ回し絡めとる。敏感な表面をざらりぬるり幾度となく撫でまわされてしまえば、水ですらあまり含まれない咥内はその滑らかな刺激に敏感に反応し、溜まった唾液を留めておけずにだらりと零すしかなくなる。
最初から決して優しいとは云えない口吸いも、だんだんと行為は激しく生々しいものになってゆく。
かぷりとまるで食べているかのように佐助の口元に噛み付いた小十郎のかさついた唇は、交わり零れる互の唾液に濡れ、顎を伝う手助けをしている。
もぐ、もぐ、という擬音をつけたくなる動きに、咥内も唇も甘噛みされているのであろう佐助の肩は合わせて跳ねた。

「んぁ…っ、は、ぁ、っかは……はっ」

気まぐれに離してやれば、開放された衝撃に反らせた喉に銀糸がひとすじ、つ、と垂れたのが見えた。
耳からうなじまで真っ赤に染めたこの忍以上に、余裕で笑ってみせる小十郎の目もとには恍惚といえるそれが滲んでいた。

うっすらと汗に濡れたうなじの髪が、数本の束になって小十郎の節くれ立った指に絡みつく。
ぐ、と、腰を抱き寄せる。

「初心すぎんのも問題だな」

くつくつと喉で笑う目の前の男の姿が、どうにも滲んで良く見えない。と、佐助は必然的に睨みつけるのだが、そのせいで瞳に溜まった生理的な涙が、ほろほろと溢れる。
戦化粧が涙に溶け、唾液と混じり顎を伝う頃には鮮やかな緑のそれに変わっていった。

「うるさいよ……あんたがしつこいだけ、だってば…っ」

鼻声で訴えてくるが、喉も、唇も、舌先までもが、荒々しいこの行為に痙攣しているのだろう、発する言葉も絶え絶えに震えたものとなった。
佐助は力の入らない下半身に舌打ちするが、ぴくぴく引き攣る舌ではままならずに終わる。
はくはくと目の前で呼吸を整えようと必死になる姿は、己より齢(よわい)を重ねた男とは思い難い。しかし、己よりも経験の豊富な年上の男が、ましてや色事においては常人以上に鍛え上げられた名のある忍が、己の口淫に翻弄されぐずぐずに蕩けるというのは、男冥利に尽きるというもの。情を交わした互であれば尚更に。
反った喉を甘噛みしながら、徐々に耳元へ。真っ赤に熱をもった耳朶に、囁くように息を吹き込めば、ん…と身を竦める。そんな些細な反応にも、情が湧き、欲情する。

「続きは今夜、だ…必ず来いよ」

待っている…。
殊更低く耳元で囁けば、ふる、と肩を震わせ、抱き寄せた腰から完全に力が抜けた。

「…りょ、かい…」

涙に覆われた瞳を揺らして、佐助は小さく頷いた。
腰を抱き寄せていて正解だな。そう呟いた小十郎に、口吸いの苦手な忍は不本意ながら同意した。




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よく濡れよく震える唇

小十郎よりも年上な佐助はうちのデフォ@になりそうです。
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テーマ「人外ファンタジー」
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