ムスナのちゅっちゅ






ちゅ、ちゅ、と可愛らしいリップ音が、枯葉色の毛布に吸い込まれていく。
彼の小さな口の、色が薄いので目立たないけれど意外とふっくらした唇は、ママの焼いてくれるレーズンパンよりもふっくらしていて柔らかい。
さっきまでコーヒーを飲んでいたので、チロリとなめた舌先には砂糖の溶けたコーヒーのほろ苦い味がひろがった。

もしも、急に誰かがこのテントにやってきて、ミィのように乱暴に入ってきたとしても。
小さく丸まって、リスのようにお互いのからだにうずまるみたいにこの毛布に包まっているのだから、平気だ。
いつも夜遅くまでやわらかく不安定に揺れながら辺りを照らすランプも、このテントの片隅にもぐり込む時に消してしまったのだ。
今分かるのは、ぷにぷにとした肉厚な自分の手指に絡ませている彼の手指と、お腹にあたる丸くなっている彼の膝。
それから、寝息を感じる鼻先と、彼に内緒でくっつけている、お互いの口と口。
こんなにドキドキして、尻尾まで熱くて、耳の先まで震える感覚は初めてで、これがいけない行為なのだと実感する。
最初は、誰かが来ても何も聞かれないように、秘密の話をするために、この毛布に包まったのに。
あまりにあたたかくて、久しぶりに会った彼との空気にほっとして、嬉しくて頬が熱くなるほどだったのに。
いつの間にか、彼も自分もうとうとしてしまっていた。
気がつけばぼんやりと目の前で彼はすやすやと子供らしい寝息を立てていて、自分も眠ってしまったけれど、今目が覚めたのだと分かった。
鼻先が、彼の髪にくすぐられている。口と口を触れさせているのだから、当たり前なのだけれど。
そのくすぐったさが、なんだかとても嬉しい。
彼が眠っているからこそ、こんなことができているのに。彼が眠っているからこそ、この嬉しい気持ちを伝えることができないのがさびしい。
トクントクンと早いままの心臓の音。
もう一度眠っても、朝までこんなに早いままだったらどうしようと思う。
こんなにくっついて眠っているのだ。もしも彼がいつも通り早起きして、自分のこのドキドキに気づいてしまったら、どうしよう。

このドキドキが、彼にも移ってしまえばいいのに――。

そうすれば、二人一緒にドキドキして、恥ずかしいねと笑いあって、繋いだ手も、すぐに離さなくてもよくなるのに。
熱くなった頬を、彼の頬にすり寄せて、ぎゅうっと目を閉じた。
彼の寝息で、鼻先の産毛が揺れる。少年の心も、ぐらぐらと揺れる。
落ち着かない心臓が、少年の胸を揺らし。
枯葉色の毛布の端で、小さな尻尾が揺れた。








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少年トロールのドキドキの夜
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