rinGeee | ナノ


ああ、いい眺め。いつも人を小馬鹿にしたような、上から見下ろすような視線ばかりで、せっかく自分の方がでっかいのにどうしてか感じられなかった視線。でも気にならなかったのは多分、自分が彼を見ているという意識のもとに接してきたから。
人間変わるときはあっという間だと誰かが言っていたような。少しだけ、わかる気がする。なんとなくだが。そう、例えるなら野良猫だろう。必死に今までを生き抜いてきた己のみを頑なに信じて守ろうと意固地になって。周りを見渡す余裕もないくらいにギリギリの精神で。泥と涙と血と、全身に纏う雰囲気はまさに野生の獣のようだ。いつか読んだ図鑑には、アルビノとは長く生きにくい種だとあったが、きっとこの男は充分な年齢まで生きるだろう。なぜだか確信している。心の奥底での希望も含まれていそうだが、短い間でも共に駆け抜けた過去を振り返るとこの男がそう簡単には死ぬとは考えにくい。たまにふと考えては話題に上げる度に、返される言葉は決まって「案外呆気なく死んじまうもんだぜ」。さみしいやつめ。
たまに確信を突いてくるくせに普段は何を思ってあんな表情を見せてくるのか、未だに分からない。ただ、自分にだけ、近しい存在の高杉や桂とはまた違う一歩を踏み込んで来てくれているのは分かった。本人は気付いているのかいないのか、それもよめないまま数年来の付き合いは続いているのだから不思議なものだ。出会ったばかりの頃は強気な野良猫、今はなついてくれた野良猫。人間変わるときはあっという間だ。この男は不変的な流れのまま変わらないようでいて、ある部分は激流のように激しい男だ。自分勝手に激しく流れる中に、ごろりとそれを妨げる岩として在れたら、自分はきっと幸せだろう。何者にも身を預けようとしない男の一部に存在を焼き付けられるのだから。
普段は独りで立ち尽くすような。一人ふらふらと人混みの中に溶け込むような。あんなに目立つ容姿をしていながら、なぜか人々や景色に違和感なく溶け込んでしまえるのはこの男の困った長所かと思う。自分はきっと無理だろう。
たゆたう空気を感じさせつつ、どこか達観視するこの男を組敷く今かの瞬間に、堪らなく優越感を抱くのだ。指先の愛撫に速まる鼓動が白い胸を叩く。
「は、しつけ…」
「おまんがしおらしくちゅうきに、やり易い」
そのままおとなしくしていろと耳朶裏に吸い付くと、ふるりと肩を震わせた。
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