水浸しの心臓

※同棲してます
※「忘れられた肖像」edその後捏造
※吐くほど甘い





「ただいまぁー」

「おかえり、名前」


いつものように仕事から帰ってドアを開けると、料理を作っている時に漂う良い香りが鼻をかすめる。だけど今日は残業で疲れちゃったので正直食べるよりも寝たい。私は靴を脱いでリビングにおぼつかない足取りで行くと、ソファーにダイビングをした。ああ、化粧とか取ってない…口紅ソファーについたらごめん。


「ちょっと、そのまま寝ちゃったらスーツに皺がつくわよ」

「んー面倒ー…ギャリー、脱がして」

「…それ、本気で言ってる?」

「ウソです。」

「知ってる。」


ふふ、なんて小さく笑い声を漏らすとギャリーは「もう、」と言いながら料理中だったのに一旦火を止めて私の側まで来ると、私の手を掴んでそのまま抱き寄せた。


「スーツに皺がつきますー」

「ん、」

「聞いてる?」

「後にして」

「おーいこら、むしろ私が癒されたいんだぞー」


なんて言いながらも私もそっとギャリーの広い背中に手を回すと、ギャリーは甘えるようにもっと強く私を抱きしめたので、なんとなく恥ずかしくなったので気を逸らそうとギャリーの胸板に顔をぺったりと当てると、ギャリーの心臓の音が聞こえてきた。…ふふ、ちょっと早い。なんか嬉しいなぁ。


「…寝そう」

「…あんたねぇ、ムードってモンがあるでしょ」


知ってるしわかってたけど、なんか恥ずかしかった、なんて言えない。もうそんな若い感情を表に出せるような年じゃないし。あとキャラじゃない。あーやだやだ、素直になんかなりたいけど、せめて可愛い性格してりゃよかった。


「…ギャリー、ちょっともういいでしょ?ご飯食べたい…」

「ん、まだ」

「え?」


え、ちょっとなにそれ!
そんな付き合いたてのカップルじゃないんだから、そんなにがつがつしなくたっていいでしょ?っていうかお互いもういい年なんだから、…って何私言いわけしてるの。
とにかくこんな甘い雰囲気出してくるギャリーにどうしたらいいかわからず、ちょっと本格的に慌てると、ギャリーがそっと耳打ちしてきた。


「…今日が間に会ってよかった」

「?」

「…今日、名前と初めて会った日。」


そういえば、何年か前の今日初めてギャリーに会ったんだっけ、…ゲルテナ美術館で。イヴとメアリーに出会って、一緒に走り回って、だけど…


「…ギャリーが絵になって生まれかわった日でもあるね」

「だから、ムードを考えなさいよ。もう考えたくもないわ」



メアリーに薔薇を千切られ、あの日ギャリーは眠ってしまった。あの美術館の絵の一部となってしまった。一緒に美術館を脱出したイヴは覚えてなかったけれど、私はちゃんと覚えていた。ギャリーのことが、好きだったから。
そして私は、あの日美術館に忍び込んで、自分で遺伝子組み換えして育てた青い薔薇をギャリーの絵の前で掲げたんだ。そうしたら、ギャリーは目を覚ましてくれた。


「…奇跡だったね、アレは。そういえば青い薔薇の花言葉も『奇跡』らしーよ」

「へぇえ…まぁでもホント、こうやって生きてるっていうのが夢みたいだわ」


そう言うとギャリーはぎゅっと私をさらに抱きしめた。ああ、ギャリーの心臓の音が聞こえる。体温もあるし息使いもちゃんとある。ギャリーは、ここにいる。
絵なんかじゃなくて、美術館の中で一緒だったギャリーでもなくて、現実世界にいる、生きているギャリーに会えて本当によかった。
そしてこうやって今日も無事に生きていけた私も、良かった。居場所があって、皆がいて、そしてこうやって生かされていて。そんな日常が、とてつもなく嬉しい。


「…名前、そういえば」

「ん?」


ギャリーは抱きしめるのをやめたと思えば、冷蔵庫に行きおもむろにグラスとワインを取り出してテーブルの上で注ぎ始めた。え?このタイミングで?
私が呆気にとられているとギャリーは半分まで注ぎ終わったグラスをゆっくりと私に差し出した。


「ポールワイン、知ってる?」

「そ、そりゃあ…」

「そうじゃなくて。……あーもう、わかったわよ」


再び私の腰を引き寄せ、グラス越しに私の瞳を覗きこんだと思えば、そのままそっと目を閉じた。そのいつもと違うギャリーの顔はちょっとだけ赤くなっていて、そんなギャリーに私の心臓が切なく鳴いた。



「もう離さないと、約束するわ。…名前」



え、あ!?
ドラマの中の俳優さんも少女漫画の中のイケメンキャラもびっくりするほどクサくて甘い言葉、心臓が止まるんじゃないかと思った。っていうかそんなキャラじゃないでしょギャリー!?もしかして酔った!?
だけどそんな心と裏腹に私の顔は真っ赤に染まり、困ったように眉をひそめて視線をはずすと、ギャリーが物凄く深い溜息をついた。


「あーもーガラにもないことしたわ…」

「ったく、ほんとにね!」

「まぁでも、あながち嘘ではないけれど」

「えっ」


ワイングラスを置いて、私を抱き寄せていた手をそっと離してすっと立ち上がると振り返りながらにっこりと笑った。


「名前、ありがとう」





水浸しの心臓
心拍数#0822/蝶々P
歌詞「もう離さないと約束しよう」抜粋













返信::款儺さま




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・ポールワインのカクテル言葉:さまざまな意味がありますが、男性から女性に贈る意味は大雑把に言うと「離さない」という意味です
・蝶々pが彼女に贈った歌ということでゲロ甘にしました




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