私を探して下さい

1.普通の私


「気持ちは嬉しいわ。…だけどアタシってこんなんじゃない?それに…正直今は恋愛とか考えられなくて…」


ずっと前から好きだったギャリーに告白をした。精一杯の告白だったけどギャリーは赤面もせずスマートにそう答えて、何事もなかったかのようににっこりと笑いながらとどめを刺すように言い放った。


「名前には、もっと素敵な人が似合うわよ」


そんなことない、私はギャリーがいいの。
それが、『私』のきっかけだった。






2.大人しい私


「………昨日も言ったけど…無理なのよ、今は…」

「…そっ…んな…」


昨日の服から髪型から何まで地味な物に変え、言動も全部おどおどしたものに変えて再びギャリーに告白すると、フラれてしまった。
こんなに頑張って地味な子に変えたっていうのに、もしかして違う子がタイプだった?貴方の好みはどんな子なの?
いいわ、全部試して貴方の好みの女になってみせるから。

この時までは、『私』はまだ意識があった。







3.陽気な私


「………あの……」

「ね、ね!?今度二人でこの美術館見に行かない?ほっらー見てこの人の作品すっごいよー!」

「…だから、貴方とは付き合えないのよ…」


受け入れたくない事実が、目の前につきだされたとしてもめげない。今の私は「楽しく明るい女の子」。そう、そうよ。この「人格」がダメだったんだわ!ふふだんだんと貴女好みの女の子に近づいている気がする…明日はどんな「子」にしようかしら?

私が、『私』でなくなっていく。








4.ツンデレな私


「べ、別に付き合ってあげてもいいんだからねっ!」

「…名前…何度も言ってるけど…」


別に、アンタなんて好きじゃないけど側に置いたっていいのよ!この私がそうやって言ってるのにこの男はいともたやすく私を振る。いい度胸ねこいつ、こんな私が恥をかいて言ってあげてるっていうのに!いいわ、どうせ明日は違う私だもの。今日の私がギャリーと付き合えなかったのは残念だけど、見てらっしゃい。絶対モノにしてやるんだから!

もう、戻れない『私』へと変わっていく。









5.セクシーな私



「……今夜、私を好きにしていいのよ…?ほらぁ…」

「……ごめんなさいね、そういうのは…」


やだ、このオカマ。私のこの色気をいとも簡単にふっきるなんて本当に男なのかしら?そんなとこも好きだけど。あーいいわこの胸板。頬をすりよせるとギャリーが恐ろしい物を見たような顔で私から遠ざかっていった。やだわぁもう、色気がありすぎる子は嫌いってこと?ふふっ良いわいい度胸じゃない、絶対に負けないわ。絶対に私に惚れさせてみせるわ。

そうやって、『私』は人格を切りかえることによって、悲しみを消し去った。
だけどそれは同時に『私』に戻る道も、消えていくことだった。






6.ダルデレな私


「ねむー…。はぁー面倒だけど、付き合うー?」

「……面倒なら別にいいわよ…」


ええー?なにそれありえない。
せっかく早起きして、頑張ってジャージ以外の服選んできたっていうのにー。あーもうやだなぁこんな日になるなんて、本当だるー。でもまぁ、困ってるギャリーの顔が見れたのはちょっと嬉しいかなぁー…あーでもやっぱ眠い。何気に悲しかったから寝たら全部忘れるかなー?もういいやーご飯いらなーい。

誰か、『私』を。






7.肉食系な私



「なぁなぁ、アタシらって絶対身体の相性いいと思わね?」

「………」


そういうとギャリーは物凄くいたたまれないと言ったような顔でアタシを見た。うわー失礼。つーかぶっちゃけこんなひょろっこいワカメみたいな男、アタシの柄じゃねーんだけどなんつーかなぁ…アレだよ、ロールキャベツ系男子ってやつ?最近アタシそういうのにハマってんの。ギャリーはなんだかんだ言って結構ムッツリっぽいイメージあるからさ、アタシが好意でヤってやるって言ってるのに…まぁ外ヅラは草食だかんなー。つまんな。

でもさ、なんていうかコイツアタシが此処まで言ってんのにどーしてみてくれないわけ?マジムカツク。後でギャリーは不能だって呟いてやろーか。


『私』の戻り方が、わからない。『私』はどういう人間だった?










8.ドSな私

「首輪付けて、三回回ってワンって鳴いて?…そして靴を舐めながらアタシを好きだって言いなさい」

「………ねぇ、ずっと思っていたんだけど」

「なぁに?踏んでほしいなら踏んであげるけど」

「貴方はどうして毎日違う貴方になって、アタシの前に現れるの?」


首輪やら鎖やら持ったままギャリーは神妙な顔でアタシに問いかける。は?何言ってんの、毎日なんか会ってないじゃない?アタシとは。
それともなぁに、毎日会いたいって?やだもう、お礼に縄で縛ってあげようかしら?
そう言うとギャリーはそう、と呟き首輪などのSMグッツをアタシの手に置いた。なぁにただの犬のくせに。アタシは言うこと聞かない犬を調教するのは好きだけど、離れていくなんて聞いてない。もう、一体どういうことなのよ?

そっと、『私』が泣いた。





9.森ガールな私


「ギャリー、あのね…好きなの。だけどギャリーは、忙しいと思うから連絡とかそんな頻繁に…」

「聞いてくれるかしら、名前」


ぺたんこな靴にふんわりとしたウェーブがかかった髪でギャリーの目の前に来ると、ギャリーは私を見るなり肩をがしっと掴んでそう言った。
わわ、やだ何…こんな近いなんて、まっまだそういう行為は早いと思うんだけどっ…!


「名前がアタシの為に毎日自分を変えているのはわかっているわ」

「へ?」

「アタシの為に必死になっている姿を見て、心が揺らいだわ」


そう言うとギャリーはにこりと笑い、そしてそっと頬を撫でると口を開いた。


「名前、付き合いましょ?…ただし、アタシは一人の人としか付き合えないわ」











10.泣き虫な私


「……ギャリーいぃ…ひぐっ…」

「…昨日アタシが言ったことは本当よ」


ギャリーの前に来て、早速泣きだす私をギャリーは優しく頭を撫でてそっとハンカチを渡した。ふぇえぇ…ギャリーのハンカチだなんて恐れ多くて使えないよう…っていうか昨日って?…私なにか言われた?


「…アンタ達は全員違うのね…まあいいわ、全員に何度でも言ってあげるわ。」

「ん…?」


「名前が好きよ。だけど付き合えるのは1つの人格のみ。一人の名前しか付き合えないわ」




1つの人格?一人の私?何をいっているのギャリー。そんな言い方しないでよ、まるで私が沢山いて、多重人格みたいじゃない?…多重人格?ははっ何それ、そんなわけがない。


「ギャリー?どういう意味?」

「そのまんまの意味よ」


ねぇ聞いた?ギャリーが一人の『私』を選ぶって。『私』は元々一人しかいないのにね?何勘違いしてるの?なら今の『私』を選んでよ、今の『私』じゃだめなの?ならどういう子が好みなの?私じゃだめな理由はどこなの?ねぇ、ねぇ…
振り向いてよ、好きになってよ。私を、『私』を。


「ギャリー、好きっ………!」


ねぇ私を見て。私の声を聞いて。
大人しい私じゃなくて、陽気な私でもなくて、ツンデレな私でもセクシーな私でもダルデレな私でもなくて、肉食な私でもドSな私でも森ガールな私でもなくて、

本当の『私』をみて。



「ふふっやっと会えたわね、『名前』」

「………っ」



さよなら、おかえり『私』。
そしてありがとう。貴方達のことは忘れない、絶対に忘れない。貴方達の分までギャリーを愛すから。



「ギャリー、好きです。付き合って下さい」








私を探して下さい
十面相/YM












返信:犀さま

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それぞれの人格はミクwikiを参考にしました。




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