「うん、イヴちゃんその薔薇似合うね」

「あ、ありが、と」


今は緑の間の、虫たちの絵の前に私たちはいまーす。いえーい。無駄にテンションあげてみた。


私たちの手にはそれぞれピンクの薔薇に赤い薔薇。二つともみずみずしくて生き生きとしている。

この薔薇は、さっきの青い廊下の一番端にあった花瓶の中に一緒に入ってた物。
とりあえず私の独断で赤い薔薇はイヴちゃんに渡した。イヴちゃんは嬉しそうに赤いバラを見つめている。
くっそう可愛いなぁ…!!
そしてピンクのバラは私が持つことにした。うーんいいにおいだなぁこの花。



だけど次に入った部屋の張り紙には「その薔薇 朽ちる時 あなたも朽ち果てる」と書いてあった。
つ、つまりこの薔薇は命…がわりってこと?だよね?
そういえばこの薔薇、めちゃくちゃ生き生きしてるけど、なんか作り物みたいに綺麗すぎる、気がする?




そんなことを悶々と考えてたらイヴちゃんが鍵を拾い、そして急いで部屋に出た。
私はぼーっとしてたから見てなかったけどイヴちゃんの表情からして何かあったんだと思う。そしてイヴちゃんの後を追いかけて私も部屋を出ると、廊下いっぱいに描かれた『かえせ』の文字。

私はよくわからないけどとにかく危ないと思い、恐怖で立ち尽くしてるイヴちゃんの手をとって一目散に逃げ、今の状況にいたる。



とりあえずイヴちゃんの気を紛らわそうと明るい話題を出してみたけど大分辛いよね、私ですら怖かったようん本当に。
こんなとこいつまでもいるとおかしくなるよね、早くここから出ないと、イヴちゃんの精神がおかしくならないうちに。

私はほっぺを思いっきり叩くと、イヴちゃんの方を向いて、





「イヴちゃん、イヴちゃんは私が守るからね。安心して」





イヴちゃんは薔薇をぎゅっと握るとこくんと頷いてくれた。










それから『はしにちゅうい』にガチでびっくりしたり、喋るアリさんに驚いてる私を差し置いて会話に花を咲かせてるイヴちゃんに癒されて、そしてごめんね!と言いながらアリの絵を踏んで、エピローグの絵の場所。
このエピローグの絵…蝶が蜘蛛に喰われて、るの?
そしてその絵の真っ正面に鍵。私が拾おうとした瞬間、



「待って、スイ。嫌な予感するの、目の前のマネキンの、」



あ、これ美術館で見たやつじゃない?すんげぇスタイルいいな。じゃなくって、イヴちゃんはコイツが危ないっていうのね?
私は「わかったよ。じゃあコイツが何かしそうになったら一目散に逃げて」と注意をして鍵を取った。

その瞬間、ゆっくりと目の前のマネキンがぎぎぎと鈍い音を出して足が動き、首がこちらを見たようなそんな動きをすると、おっかけてきた。


「イヴちゃん逃げて!」

「っ、」


だけど足のコンパスの差。イヴちゃんより私の方がやっぱり早かったため先にアリの絵のかけ橋を踏んでしまった、その瞬間嫌な音が鳴り響く。



「スイ、絵が…!」

「っ…!イヴちゃん後ろ!」


私の体重に耐えれなかった絵に穴が。私のせいでイヴちゃんが危ない!イヴちゃんの後ろには赤いマネキンが迫ってきてる、あー私のばか!!イヴちゃんを守るって言っといて情けないなぁもう!


「っ…これでっ…ど、う!!」



私は自分がつけていた時計をマネキンの足にぶつけた。マネキンさんはその衝撃で自分の右足の靴が脱げ、その靴を違う足で踏みつけてしまってバランスを崩して倒れた。
よっしゃ私ナイス!ごめんよ時計!


「イヴちゃん!!!」


私は穴の向こう側で両手を広げて叫ぶ。





「飛び込んできて!!!!」




イヴちゃんの後ろでマネキンが靴を履き、体制を整えてる。
時間がない!!





「イヴちゃん!!!!私を信じて!!!絶対、受け止めるから!」



マネキンは再びイヴちゃんを追いかけようとし始める。イヴちゃんは決心したように穴を見ると、薔薇をきちんと握って少し助走をつけて、アリの絵の額縁に足をかけ、飛び込んだ。





その後ろのマネキンの手がイヴちゃんの髪をかすめる。






がしゃーん!!と物音をたて穴に落ちたマネキン。
イヴちゃんはというと、ちゃんと私の腕の中にいる。





「イヴちゃん、大丈夫?怪我はない?」


「うん!あの、スイ…ありがとう」








私の腕の中でにへらと汗をかきながら笑うイヴちゃん。
ううん、私の方こそありがとう、飛び込んできてくれて。
私はそのままぎゅうっとイヴちゃんを抱きしめた。













び込んで

(そのあと、私が投げた時計の行方なんて)

(気にもしなかった)














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ぶっちゃけ穴飛び越えられるならアリの絵踏まなくても…とか言わない。


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