…?あれ、なにしてたんだっけ?



あー、アレだ。お母さんの代わりにゲルテナ展を見にいったんだった。…なんでここで突っ立ってんだ私?うーんなんか思いだせないなぁ…


私はよろよろとしながら美術館内を徘徊し始める。なんでこんなに疲れているんだっけ?んー慣れないことをしたから?…慣れないことって、なんだっけ?もーなんか良く分かんないし頭痛くなってきた!もう帰ろう!

そう思って私は道を曲がった、その瞬間だった。




「…あ、」


「?」



どこか懐かしいような、見おぼえのあるようなボロボロなコートに、くせの強いウェーブのかかった紫の髪に、黒いメッシュ。背が高くて細身のスタイルの男が、大きな薔薇のオブジェの前にいた。その男は私に気がつくとこちらを向いた。
見おぼえが、ある…?



「…あの、…その…」


「…どう、しました?」


どうしよう。
なんで私話しかけちゃったりしたんだ!ナンパか!逆ナンか!いや違うんだけど、なんか…なんだろ、話しかけなきゃって思ったんだ、なんでかわかんないけど…
話しかけられた男の人は不振な目で私を見ている。うあああもう恥ずかしい!さっきのことはもう無かったことにしよう、私なんで話しかけたんだバカ!早く謝ってさっさと帰ろう!
そう思って頭を下げようと目線を下にやると、彼の手には青いバラが握られていた。


「…その、青いバラ…」


「…、ああ、これは…なんでか持っていたのよね、…でもこれ、凄く大切なものだった気がするの…わからないけれど…」


「そうなんで、………あ!」


私はその薔薇にあるものを見つけ、急いで彼に駆け寄る。その男はびっくりしたように少し後ずさったが薔薇のオブジェのせいで後ろにいけず、そのままのけぞったような格好で止まる。


「それ、私の時計…!」


「え?」


青い薔薇の茎に引っかかっていた時計、それは私が持っていたのだけれどいつの間にか落としたのか、少し…いや、かなりボロボロだった。というか壊れていた。
でも私落とした記憶なんて無…


『っ…これでっ…ど、う!!』



…違う。
落としたんじゃない、これは、ぶつけたんだ。



『…おねえさん、ありがとう』



イヴ、ちゃん。



『ワイズ、お父様…!』


メアリー、ちゃん。




『大丈夫、絶対、生きて帰ってくるわ』






「ギャリー、…?」

「え?」



そうだ、そうだよ!私今まで変なところにいて、イヴちゃんとメアリーちゃんと出会って、そしてギャリーと出会った、助けてもらったんだ!どうしてこんな大切なこと忘れていたんだろう!皆で頑張ったあの出来事を、忘れていただなんて!



「ギャリー、覚えてないの!?」


「え、あの…」



あれ、ギャリーは覚えてない?…ううんそんなことない、薔薇のことはうっすら覚えていたんだもの、絶対覚えている!
なんとかして思いだしてもらわないと!ええと…ギャリーが私を思い出す方法、ギャリーが私にしてくれた方法。


…そうだ!…でも……あーもう!ええい、女は度胸!


私は意を決してギャリーの服を掴み、一気に距離を詰めると、


ギャリーに、キスをした。





「んっ…」



ぎゅっと目をつぶり、精一杯背伸びして彼の唇に自分の唇をあてる。うう恥ずかしい、けれどもうこれしかない!…これで思いださなかったら私凄い痴女だけど……ううん、その時はその時!今はギャリーを信じるしかない!
すっと彼から離れ、顔を覗いてみようとするけれどギャリーの顔は俯いていて見れなかったし、終始無言だった。…ああ、やっぱりだめだったか…。
私は顔を俯き「ご、めんなさい」と謝ってその場を走ろうとした。

が。



「どこ行くのよ」


「えっ…」



ギャリーに腕を掴まれ、思わず振り返ると凄く優しい顔をしたギャリーがいた。私は目を見開きギャリーを見つめると、ギャリーは首をかしげながら笑う。



「マカロン、食べに行くって言ったでしょう?…スイ。」



「!ぎゃ、りー…!」


「あと、」



思いだしたんだ!よかった、本当に…思いだしてくれて、よかった…!私は嬉しさのあまり涙が出そうになるけれど、ギャリーの次の言葉に思わず真っ赤に顔を染めたのだった。





「キス、ご馳走様」



「なっ…!」



真っ赤になる私にギャリーが悪戯っ子みたいに笑う。くぅうギャリーのばか!なんで今そのこと突っ込むかなぁ…!しかもその笑顔がなんだか艶目かしくって余計恥ずかしい。もう、もう!私のおかげで思いだしたっていうのに!恩を仇で返す気か!
私はギャリーに文句を言おうと口を開こうとした、その時だった。




「スイー!」



「メアリーちゃん、イヴちゃん!」



イヴちゃん、メアリーちゃんがにこにこ笑いながら私たちの所へ来た。ってことはこの二人はあのことを覚えていたんだ…!というかよかった無事で!

二人にぎゅっと抱きつくと嬉しそうに「苦しいよ」と零すメアリーちゃん。ああやっぱり可愛い!よかったぁ一緒に来れて!
イヴちゃんも「スイ、大丈夫だった?」と最後まで心配してくれた。もうイヴちゃんってば随分と頼もしくなったんだから!でも嬉しいよ、本当に!



「…メアリーちゃん、イヴちゃん、…ギャリー」




改めて三人の前に立ち、ゆっくりと名前を呼ぶ。三人はとっても幸せそうな笑顔でそれぞれ返事をした。私はそれに負けないくらいの笑顔で告げる。




「ずっと、一緒だよ!」











コレッリ・ラフォリア






(どうか、ずっと私たちの薔薇が、)



(咲き誇っていられますように)












fin...



完結いたしました!
長い間ご愛読ありがとうございました!詳しくはあとがきにて。


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