「メアリーちゃん、一緒に、皆で出よう」
ピンクの花びらが絨毯となって散らばるその部屋の中で、私はゆっくりと笑いながらそう言う。大丈夫、なんだかいつもより動機が激しいけれど生きてる。大丈夫。
そしてポカンとしていたメアリーちゃんは暫く考えるような顔をしたけれどゆっくりと頷き、そのまま彼女を先頭に皆で歩き出す。その道のりの間、メアリーちゃんは掠れた声でぽつりぽつりと言葉を零す。
「今までいっぱいこの美術館に来た人いたけど」
「うん」
「みんな、逃げてった」
「うん」
「私がパレットナイフで刺したひともいる」
「……うん」
メアリーちゃんの黄色の髪が目の前でゆらゆら揺れている。彼女の声もゆらゆら揺れてなんだか不安定。ギャリーとイヴちゃんはお互いに自分の薔薇を守りながらメアリーの後ろ姿をジッと見ていた。
「こ、んな私でも、一緒にいた…い?」
ゆっくり振り返る彼女の目には沢山の涙が。さっきまでのヒステリックな表情ではなく、幼い表情で目を真っ赤にしながら涙を溢していた。
やっぱりメアリーちゃんは元は絵画でも、今は立派な人間だよ。そんな風に泣くんじゃなくて、笑った顔が似合うただの女の子だよ。
私と一緒の、ただの女の子。
「…勿論だよ、一緒にいよ?私、メアリーちゃんと遊びたいな」
「メアリー、私も!」
にっこりと笑う私の言葉に反応するかのように、イヴちゃんもメアリーの目の前まで来てぎゅっと手を握り、イヴちゃんはにっこりと笑いながら話しかける。メアリーちゃんは顔をくしゃくしゃにして「イヴ…」と呟き、ひたすらぽろぽろと涙を零した。だけど私の少し後ろで今まで黙っていたギャリーが急に「あ、そうだわ!」と声を荒げる。ええっびっくりした!
「ねぇ、マカロンって知ってる?」
え、急にどうしたのギャリー…?
イヴちゃんもメアリーちゃんもぽかんとした表情でギャリーを見て、私も二人と同じ顔で見る。ギャリーはうきうきした様子で人差し指を立てながらそのまま続ける。
「美味しいマカロンのお店があるの!…………4人で脱出したら、そこで皆でお茶会しましょ?約束よ!」
こつこつとメアリーちゃんとの距離を縮め、そしてしゃがみながらギャリーは笑う。メアリーちゃんはプイっと顔をそらすが、耳はちょっとだけ赤い。そんな様子を見てイヴちゃんは笑う、ギャリーも笑う。
よかった、皆うれしそう。
私は自分の心臓の鼓動が、少しずつ弱まっていくのを身体で感じていた。
ああ、やっぱり曲がりなりにも私は『ワイズ・ゲルテナ』だったのかな…後悔なんてしてないけれど。
私は精一杯の笑顔を作りながらイヴちゃん、メアリーちゃんの手を引いて歩きだす。
「うん、絶対一緒にいようね!」
いまだけは、うそをつかせて。
うそつき少女メアリーちゃんが連れてきてくれた場所は、一番最初に文字が浮かび上がった場所にあった『絵空事の世界』の前だった。どうやらここがゴールみたい。よかった、持ってくれた私の身体。
メアリーちゃんが目配せするとそれに答えるように絵の額縁が消えた。ど、どんなマジック!?…まぁもう慣れたけどやっぱりびっくりするなぁ…。それを知ってか知らずか、驚いている私たちに対してメアリーちゃんはにこにこしながら「ここをくぐれば出られるよ!」と言い、絵の中に手をいれた。……なんとかして皆に脱出してもらわなきゃ、バレないうちに。
「皆は、先にいってて。」
「え?」
「…ちょっと、忘れ物したんだ」
メアリーちゃんは少し眉をひそめたが、「後で絶対いくから」と言うと笑顔で返事をし、無理矢理イヴちゃんを連れて絵空事の世界へ飛び込んでいった。イヴちゃんも少し心配そうな顔をしたけれど私が笑うとそのまま絵の中に吸い込まれてしまった。
飛び込んで行った二人を見て、私は「ギャリーも、」と催促をしたけれどギャリーはその場所から一歩も動こうとしなかった。
「ギャリー…?」
「………ねぇ」
「………話したいことが、あるの」