※イヴ視点






『謝られるより、ありがとうの方が嬉しいなぁ』


初めてあった時のことは、ずっと忘れない。



私はずっと、人の顔色を見て過ごしてきた。テストの点数だっていつも高得点であれば皆ほめてくれる、いつも率先してクラスの為に動けば皆ほめてくれる、いい子でいられる。

お母さんもお父さんも「よく出来たね」「流石だね」って言うようになって、もっと頑張ればもっと言ってくれる。
私がいい子になればお母さんも、お父さんも喜んでくれる。

皆、笑っていられる。私がいい子になれば。



だけどやっぱり少し辛かった、私は天才じゃないから。運動だって苦手だし、ピーマンだって嫌い。残したくってもいい子は残さないもん。
でも喜んでほしかった、いい子でいたかった。

喜んでほしかった。ただ純粋にそれだけだったの。




だから、ああ言って意見を言ってくれる人は初めてだった。







いつの間にか迷い込んでしまったよくわからない場所で戸惑っても、ちゃんと私を守ってくれた、いつだって励ましてくれた、だから頑張れた。



『イヴちゃんは、私が守るからね』



私も頑張るよ。だから一緒に出ようね、スイ。















「メアリー、返して!」


私はギャリーと眠っているスイを置いて一人メアリーを追いかける。さっき彼女はスイの薔薇とギャリーの薔薇を持って走っていった、メアリーはさっきスイとギャリーの薔薇にパレットナイフで突き刺そうとしたから、きっと危ない。

必死に走って走って走る。運動は嫌いなのに、いつも走るのは苦手だったのにそんなこといっていられない、だって二人の危機なんだもん!



そりゃあメアリーが絵だったのもびっくりしたし、スイがゲルテナの生まれかわりなのもびっくりした。けれど何故か二人を信じることが出来たの。
だって、二人はいつだって笑顔で私を支えてくれたんだもの。
ギャリーだって、飴くれたりコートかけてくれたり、優しくしてくれた。


じゃあ私は?

私は今まで何かしてあげられたの?





三人が喜ぶためには、いい子でいたって意味がないんだ。






「イヴ、どうしてそんなこというの…?」

メアリーは青い薔薇とピンクの薔薇の花弁を掴んだままこちらへ顔を向ける。その目は光が灯っていなくて少し怖かったけれど、怯むことはできない。


私、私は……



「それは、スイとギャリーの大切なものなの、お願いメアリー」



その言葉を聞いたメアリーは泣きそうな顔にまで顔をゆがめると、一旦顔を俯き、そして掴んでいた花弁をいっきにひき千切った。



「メアリー!?」


「どうしてどうしてどうして!??イヴ、私のことが嫌なの!?私よりあの二人なの!?どうして!?ねぇ、一緒に出るって言ったよね!?約束したよね!イヴも裏切るの!?また私を一人にするのぉっ…!!!」


メアリーは泣き叫ぶかのように花を何枚も何枚も引きちぎる。メアリーの悲痛な叫びが心臓に突き刺さるかのように痛い。
メアリーも、どうしたらいいのかわかんないんだ。どうしたら喜んでくれるのか、見てくれるのか、わからないんだ。

いい子を演じていた、前の私のように。



私はそっとメアリーの手を持つと、メアリーの目を見て笑いかける。




「メアリー、私の薔薇を千切って。」


「イ…ヴ…?」


二人の薔薇をそっとメアリーの手から外し、ゆっくりと自分の赤いバラを渡す。メアリーは戸惑いが隠せないみたいで青くて綺麗な瞳が揺れ動いている。


「私ね、メアリーのこと好きなんだけど、ギャリーとスイも好きなの。大切で、とても素敵なことを教えてくれた。メアリーだってそうだよ?私に色々なものをくれたの。


だけど、メアリーが二人のことを嫌うなら、私の薔薇を千切って。」




私はメアリーもギャリーもスイも好き。誰か一人だなんて選べない。だけどメアリーが二人の薔薇を千切るくらいなら、私のを千切ってほしい。


今まで、私は何も皆に出来なかった。ただ皆の優しさに甘えていた。
なら今度は、


『イヴちゃんは、私が守るからね』



今度は私が守るよ、スイ。










「イヴ……っ」



メアリーの瞳が揺れ動く。酷く混乱しているみたいでぼろぼろ泣きながら、ふらふらとおぼつかない指先で花弁を掴んだり、離したりしている。
もうどうしていいのかわかんないんだ、メアリー。でもね、メアリー、これだけは言わせてほしいの。


「約束、守れなくってごめんね…そして、ありがとう」



ありがとう、ありがとう、ありがとう、ごめんなさい。
こんな形でしか、守れないこんな私。だけど皆たくさん教えてくれた、いい子じゃなくったっていいって教えてくれた、皆に沢山、たくさん…



「メアリー、千切って。」



メアリーはもうわけがわからないといった風に私の花弁を掴み、そして一気に千切ろうと…したところで止まってしまった。彼女は大きな瞳をいっぱい広げて私の後ろを凝視していた。
なんだろうと思って私も後ろを見ると、




「イヴちゃん、メアリーちゃん…!!」




ギャリーと、スイがそこにいた。












記憶








(私の、)

(わたしの、)

(アタシの、)

(((きおくの中心には。)))

















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「記憶」はおそらくイヴのテーマ曲。3話連続同じ題名だったのはこの話を書くためだけにわざと同じにしました。大分時間かかってすみませんでした…!


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