※ギャリー目線





「ワイズお父様…!」



メアリーの言葉に驚きが隠せない。嘘でしょう、スイがゲルテナの生まれ変わり…!?

アタシは手につかんでいる青い薔薇を力いっぱい握る。冷や汗がだらりと垂れて、開いた口がふさがらない。アタシをこんな世界にひきずったのは、恐らくメアリーだろうけれどこの世界を作ったのは、メアリーを作ったのは、彼女だというの?


彼女は優しい瞳で愛おしそうにメアリーを抱きしめる。それは慈愛に満ちていて、まるで久々に娘に会ったような今までにないくらいとても優しい顔だった。
ふと隣を見ると、イヴもアタシと同様に驚いていて何も反応出来ない状態だった。


そうよね。だって、アタシ達を困らせた無個性やマネキン、その他の絵達。

その全てが彼女が手掛けたもの、だと信じたくないから。




アタシ達を追い詰めていた犯人は、彼女だと認めたくなかった。







アタシはぐるぐる回る思考回路に酔っていると、さっきまで二人は抱き合っていたのに事態は一転、メアリーが彼女を突き飛ばしていた。
そしてメアリーはまっすぐパレットナイフをピンクの薔薇に突き刺そうと彼女のもとへと迫る。
なんとかとめようとしたイヴの叫び声にアタシはハッとして目が覚めたかのように現実へと戻った。



そうよ、……何しているのよアタシ!




アタシは急いでメアリーの元へと走り、そしてメアリーの手を力いっぱい握る。あと少しで薔薇の中心部にパレットナイフが刺さるというギリギリな位置でメアリーの手は動かなくなった。メアリーはアタシの力には勝てずアタシを睨みながらそのままもがいている。
ごめんなさいね、いつものアタシなら加減するんだけどそうにはいかないのよね。



アタシは、何を勘違いしていたのだろう。


スイは、確かにゲルテナの生まれ変わりなのかもしれないけれど、それは「過去」の話であって、「今」は違うというのに。



彼女は、「スイ」というただ一人の人間なのに。






生まれかわりというだけでアタシは一瞬でもスイを疑ってしまった。今までのスイの行動を見ていればすぐに気づいたはずなのに、アタシったら本当バカね。
一番最初にアタシを助けてくれたのは、スイなのに。
いつだって笑って励ましてくれたのは、スイなのに。

この子の為に何が出来るかわからないけれど、今この子は危ない状況。



なら、今度はアタシが

スイを、助けるわ。





だけどメアリーはそのままアタシの腕に噛みつき、アタシの薔薇が散って全身の痛みを感じて力をゆるめてしまった。まずい!
だが彼女はスイの薔薇ではなくアタシの薔薇を目がけてパレットナイフを突き出す。まずは邪魔なアタシを殺そうと思ったのね…!

でもアタシはさっきの薔薇が散った痛みですぐには動けず、迫りくる彼女に反応ができずそのまま突き刺さろうと、したその瞬間。



ぬるり、と青い大きな人形が本棚のすぐ後ろから現れ、そして大きな手でメアリーを捕まえ、そして片方の手でアタシとイヴをも捕まえて何かパクパクと口を開いている。メアリーは顔色が真っ青だけど何言っているかよくわからない。
だが次の瞬間、青い人形はメアリー、そしてアタシとイヴをそのまま大きな口に放りこみ、ぱくり、と口を閉じる。



最後にスイに向けて伸ばしかけた手は、人形の口を塞いでいるはずのただの赤い紐にすら、届かず暗闇に吸い込まれていった。













「ん…?」

そうしてどれくらいの時間が流れたのだろうか。

アタシは誰かに肩を叩かれる感触がして目が覚める。ここは……アタシ、さっき大きな人形に食べられて…。
段々と状況を把握してきた所で、ふと顔をあげると真っ正面には顔を真っ青に染めたイヴがアタシを不安そうな顔で見ていた。さっきアタシの肩を叩いていたのはイヴだったのね。
イヴに怪我をしてないか聞くと大丈夫だったみたいだけど、イヴは震える口で小さく零す。



「でも…スイが、あそこで、」




イヴが指を指したその場所には、丁度イヴくらいの身長の青い人形二体がスイを大切そうに抱えていた光景が広がっていた。
そしてよくよく周りを見てみるとあちこちに小さな青い人形、マネキン、無個性などが転がっており、床は黒いがクレヨンで何か落書きされたような模様がある。
どうみてもさっきとは全然違う、現実味がないこの状況にアタシはまた驚き硬直してしまう。


もう本当、色々展開が変わりすぎよ!


アタシは重い腰をあげて立ち上がるとイヴの手を取る。よくわからないけれどきっとスイも青い人形に食べられた。あのままあそこで放置されるよりはマシだと思うけど…青い人形に捕まっているのは危ないわ、一刻も早く彼女を助け出さなきゃ!
アタシはイヴをひっぱって二人で走ってスイの元へと走る。
そして大きな声で彼女の名前を叫ぶ。


「スイ!」



青い人形に抱きかかえられている彼女はまだ意識がなく、不気味に白い肌がまた不安を駆りたてる。もしかして薔薇をちぎられてないでしょうね…!?
青い人形を睨むが何も反応はない。それが当たり前なんだけれど今はそれが余計に不安を感じる。
とりあえず青い人形(中)からスイを奪い取って、彼女を横抱きに抱き上げる。腕や足からはまだ微かに体温がある。大丈夫、ちゃんと生きているわ…!

早い所スイの薔薇を探し出そうと、イヴとアイコンタクトを取って歩き出した、その時だった。





「わぁーっ!綺麗ー!」





ふと耳に届く高い声。後ろを振り向くと金色の髪に青いスカーフ、緑のワンピースをきた絵画の彼女が小さな青い人形と話しているのが見えた。メアリーもそういえば一緒に食べられたんだったっけ…無事、だったのね。


だけど嬉しそうに笑う彼女の手元には、



「ちょっと、アレはスイの薔薇じゃない…!!」



ピンクの薔薇が彼女の手で綺麗に咲き誇る。そのままメアリーは青い人形と何か話し合っている。妙に嬉しそうなのがまたおかしいわね。
動揺は隠せないけれどなんだか酷く嫌な予感がする。アタシとイヴは急いでスイを抱き上げたままメアリーの元へと走ると、白々しく彼女は驚き、そしてふわりとほほ笑む。その綺麗な笑顔に思わず鳥肌が立った。


「これ、この子がくれたの、綺麗でしょう?…………スイの薔薇。」


「!アンタ、わかってんならっ…!」


「ふふ、ギャリー、これ返してほしい?」


にこりとメアリーが笑う。その笑顔は綺麗な分、なんだか不気味で恐ろしい笑みだった。
彼女は左手をまっすぐ伸ばしてアタシに向けると、ゆっくりと口を開く。
それはまるで駄々をこねる、小さな子供が何かをせがむようなポーズだった。



「ギャリーのと、交換してよ」





わたし、赤い薔薇もピンクの薔薇も好きだけど、青い薔薇の方がもっと好きなの。



その言葉を吐いた瞬間彼女の目の光がなくなり、目は笑っていないのに口元だけ不気味に笑いながら彼女はアタシを指さして訴えかけた。
イヴは驚きで硬直し、アタシも全身が石像になったかのように眉ひとつも動かすことができなかった。
なんでかって?だって、そんなの、




そんなの…



「ギャリー…?」

唇に力をいれ、口内で分泌された唾液をごくり、と飲みほしてなんでもないような顔でメアリーを見つめる。
アタシの様子に不安げなイヴが力なく呟いた。アタシは目を閉じて軽く息を吸うと、再びメアリーに顔を向けてゆっくりと口を開く。


「…………いいわ、交換しましょ。」




そんなの、断れるわけないじゃない…!


さっきメアリーはスイの薔薇を狙っていた。このまま放っておくと彼女の薔薇が危ない。
まぁもっとも、アタシもさっき狙われたからアタシも危ないんだけど、アタシよりも彼女の方が大切よ。

だって彼女は………

覚悟を決めたアタシをみて、メアリーは高らかに笑いながらアタシのポケットに入っている青い薔薇を無理やり奪ってそのまま奥へと逃げていく。


「ちょっと、スイの薔薇…っ!!交換の約束でしょう!??」


「うふふ、ギャリーってば私が約束守るとでも思ったの?うふふふ、あはははは!!」



彼女はアタシとスイの薔薇を持って笑いながら走り去った。あの子、こんなことするとは思わなかった、迂闊だったわ…!
アタシは唇を噛み、悔しさに駆られていると今までずっと何も喋らなかったイヴが、意を決したように顔をあげると、突然彼女を追って走りだしたのだった。



「えっちょっとイヴ!?」



「メアリーの、ばか…!!」




イヴはそのまま奥の階段へと消えていく。
ああもう本当、なによ皆自由に行動しちゃって!!!
アタシはスイを抱え直すと、イヴの後を追って走りだした。




まったくもう…スイ、アンタの先代本当に大変なことしてくれたわね!

でも、

ゲルテナがこの世界をつくってくれなきゃ、アタシは大切なことに気付かずに過ごしていたかもしれない。




今まで忘れていた、忘れちゃいけないアタシの大切な、













だからアタシは二人を追いかけるのに必死で気づかなかった。


アタシの腕の中のスイが、ゆっくりと瞼を開こうとしていることに。














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個人的なギャリー考察も書きたかったのですが長くなるので削除。多分どっかで書きます。


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