『これで完成、っと』


ゴツイ男の人の手が黄色の絵の具がついた筆を置いてふう、と息を吐く。その男が筆から視線を外し、顔をあげて見上げたその先には、

メアリーちゃんに良く似た、黄色の髪の少女の絵があった。



『メアリー、お前は私の最後の作品だよ』



え、あれ…メアリーちゃんなの…?うそ、だってあれは、



『後はよろしく頼むよ、皆。』



他の作品や作りかけの作品を見渡して、彼はそっと薬品が入ったビンを持ちころんと何粒か薬を出すと一気に飲んだ。
カタンとイスからずり落ちた彼は、眠るようにゆっくりと目を閉じた。その様子を見ていた黄色の少女が、額縁の中でゆっくりと表情を変えて悲しそうな顔をした。
彼が瞳を閉じると同時に私も意識が遠くなっていく。
そして、まどろむ意識の中で黄色の髪の少女の口が額縁の中で動く。


『どうして一人にしちゃうの…?』


『ねぇさびしいよ。やだよう、遊んでよ
 

 ワイズ、お父様…』











「ぬおっ!?」

がばっと起き上がり、周りを見渡す。私は花の香りに意識を飛ばされたはずなのになぜか本棚にいた。なんで?
そしてその本棚の真ん中には「聞き耳」という耳しかない絵があった。この絵、さっきの夢の、男が見ていた作品達の中にもいたな…というかさっきの夢、妙に現実的で…そしてメアリーちゃんが絵とかいう最悪な夢だったな。なんであんな夢見ちゃったんだろー。


と思いながら本棚の中でふと目についた「ゲルテナ作品集」。…そういえば、ゲルテナって、ファーストネームは「ワイズ」なんだっけ…
ぱらりと何も考えなしにページを開くとなんとなく見おぼえのある作品たち。そして一番最後のページを開いた瞬間、驚愕した。


『メアリー −−−−年
ゲルテナが手掛けた 生涯最後の作品。』



「ゆめ、じゃなかっ…た…?」


メアリーの絵が紹介ページに載ってある。あぁ、夢でみたメアリーちゃんの絵だ。見れば見るほど美しく可憐に彼女は笑いかけていた。どうして、なんでメアリーちゃんが絵なの?どうして、夢であったらよかったのに…!


どうしようもない真実が私に襲いかかる。
ああ、メアリーちゃん、



『ねぇ、さびしいよ、遊んでよ』



きっとワイズが亡くなってからこの子はずっと一人で、だから額縁を飛び出してまで私達に会いにきたんだ、遊びたかったんだ。
彼女の思いが私に流れ込んできてそれが涙となって伝い落ちてくる。どうして私が泣くのだろう…?
自分でも不思議に思っていると背後で音がした。



「っ!……スイ!??」


「!!?、ギャリー!?」



ばたん、と音がして振り向くとそこにはギャリーの姿が。
泣いていたのでそんな私の姿を見て、ギャリーはぎょっとして「え、大丈夫!?怪我でもしたの!?」と心配してくれた。そんなギャリーの優しさにまたぽろぽろと出てくる。



「スイ、大丈夫…っ!?」


「ギャリー………!」




思わずギャリーに抱きつく。ギャリーは驚いて固まっているけれど私はただひたすら出てくる涙の止めかたが分からずぽろぽろと流す。あぁギャリーの服濡らしちゃうな…ごめん鼻水は付けないように努力する…!
ギャリーは暫くしてそっと私の頭を撫でる。そして気づいたように私の手から作品集を取る。あ、


「だめ、ギャリー、見ちゃだめ…!!」

「えっ…ちょっとスイ!?」



ばさりと音を立てて落ちたそのページは、丁度メアリーちゃんのページ。暫く無言でいたがその後ギャリーは小さくぽつりと「嘘…」と零した。
そしてそっと私の肩を持つと、慰めるように抱きしめる。

ああ、ギャリーはあったかいね、生きているんだね、

ぼろぼろと涙が出る。ねぇメアリーちゃん、私メアリーちゃんにどんな顔で会えばいいかもうわからないよ。



私になにか、できることがある?




その時、ふわりと嗅ぎ慣れた匂いが鼻にかかる。下を見るとギャリーの薔薇と、見慣れた私のピンクの薔薇。



「ギャリー、それ…」

「ん?あぁ、これはあの場所に一旦戻ったらスイがいなくて、そのかわりにこれが落ちてたのよ、この薔薇はスイのでしょ?大事に持っておきなさいな」




そっと差し出される私のピンクの薔薇。作り物のように美しく咲き誇っており、生き生きとしている。


「にしても不思議ね、この薔薇。」


ギャリーは私に微笑みながら渡す、そのピンクの薔薇の枚数は





「80枚もあるだなんて。」














「ギャリー、スイ!」

ぼーっとしているとメアリーちゃんとイヴちゃんが部屋に入ってくる。イヴちゃんは私を見るとパタパタと来て抱きつく。
そしてメアリーちゃんはゆっくりと私達の方へ行こう足を踏み出したが、私の足元に転がっているメアリーちゃんのページが開かれている本を見つけてしまった。

その瞬間まるでさっきの美しい笑みが消え、すばやくパレットナイフを取り出すとイヴの方へ駆け寄りイヴの薔薇を持っている手を掴む。



「スイにギャリー…知っちゃったんだね、あーあ、どーせアンタも私を嫌うんでしょう!ちょっとでも動いてみてよ!イヴの薔薇を一突きしてやる!!!」



メアリーちゃんの目に光がなく、ただ叫ぶ。イヴちゃんはどうしようも出来ずただ震えている。
ギャリーもしまった、という顔でメアリーちゃんを睨みつけているが、私は息を飲むと素早く"メアリー"の元へ走りだす。
"メアリー"は予想外の出来事だと言いたげに迫ってくる私に反応出来なかった。




「…メアリー、」


「っ、!?え、あ、スイ…」



そしてぎゅっと私は彼女を抱きしめる。こんなにもあったかいのに、ふわふわしているのに絵だなんて残酷だ。でもそんな彼女を作ったのは



この私なんだよ、ね



思いだした、全部思いだした。思いだしてしまった。






「ごめんね、一人にさせてて…メアリー。」



「え…?」






最初の床には「まってたよ」の文字。
何故か優しい猛唇さん。
私にだけ青い服の女やマネキンの声が聞こえる。
私の薔薇は80枚もあった。


今思えば全部不思議なことばかりだった。
でも、今となっては当たり前のことだったんだね



メアリーが目を開きながら"私"の名前を呼ぶ



「ワイズ、お父様…!」






そう、私の生まれる前の名前は









ワイズ・ゲルテナ











そう私の中の彼が、教えてくれたのだった










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この話書くだけで二週間もかかった…


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