「わっ!…お、大きい…」
「…寝てるね」
あれから気を取り直して、二人でまた奥の部屋へと進んで行った先には、絵からにゅっと頭だけ出してすやすやと寝ている大きなヘビがすぐ側にいた。思わず吃驚して大きな声を上げたのにも関わらずヘビは動じずそのまま寝ていた。良かった…っていうかイヴちゃん相変わらずビビらないのね。
「…ヘビちゃんがいるから向こうにはいけないね、あそこの階段に行こうか」
「あ、でもまって…」
イヴちゃんが控えめにぐい、と服を掴むと静かに横に指をさした。そこは私でも気付かなかった細くて小さな廊下が広がっており、なんだか向こう側からいい匂いがする。…これは紅茶かな…もしかして罠?
そう思ってイヴちゃんに「あそこに行かない方がいいよ」と言ってもイヴちゃんはふるふると首を振って頑なに動かなかったのでしぶしぶその廊下を通ることにした。
イヴちゃんって好奇心旺盛で結構強情だよね…その上凄い怖いもの知らず。…まぁそんなとこも可愛いんだけどね!
だけど一応心配なのでイヴちゃんを後ろに隠しながら進んでいくと、なんだか見覚えのある人影が見えてきた。
「………っあ!ギャリーにメアリーちゃん…!?」
「…スイ、イヴ!?」
「嘘!…二人ともここに迷い込んでたの?」
色とりどりのカラフルな額縁に収められた画廊には、ギャリーとメアリーちゃんがいた。二人ともきちんと薔薇を持って。
そして二人ともやっぱりあの時迷い込んだ時と同じ服装だった。詳しく理由を聞いてみても首を横に振り、その上二人とも「寝ていたのにいつの間にかここに来ていた」という私たちと一緒の理由で来たらしい。…本当どうなってるんだろう…。
「…でも会えてよかった…怪我ない?」
「それはアタシの台詞よ!二人とも大丈夫だった?」
「うん、メアリーは?」
「私は全然だいじょーぶ!それに私たちはさっき起きたばっかりだし!」
「そうなの?」
「うん!いつの間にかギャリーとここにいてねー、紅茶の匂いがしたから起きたんだ!」
紅茶?
ああそういえばさっきからずーっと紅茶の匂いがするんだよなぁ、と思ってあたりを軽く見渡すと紫の額縁のおさめられた絵から微かにいい匂いがする。しかも湯気までたってるし…さっきから漂ってきてた匂いはこれだったんだ…。イヴちゃんも納得したようにじっと絵を見つめている。私もそれにつられて絵を凝視し始めた。
少し高級そうな細かい模様が施されたティーカップからは、茶色に染まった優しい色の紅茶がゆれ、それに合わせてふわりと香る上品な匂いの紅茶で多分飲んだら絶対美味しそう……なのにいざ触ってみたらただの平面な紙。ひでぶ。
「…凄く良い香りだけど、これはこれで凄い嫌がらせだと思わない?」
「!ギャリー」
今日はイヴちゃんも含め皆とは美術館出てから初めて会った。だから事実上…あの日、ギャリーと、その…き、キスをしてから初めてあったということになってしまった。か、顔が見れない会話が出来ない息が出来ないどうしよう。あああ昔の自分何やってるんだああ!戻れ!時間よ戻れ!
恥ずかしがりながらも何かいわなきゃとソワソワしていると、
「…スイ?」
「ひっ!」
ギャリーが顔を覗きこんでくるから思わず大きな声を出すとギャリーが目を見開いて私を見た。う、うわぁああやだ私今絶対顔赤い!すぐに下を向いたが完全に見られてしまった以上もうどうしたらいいかわからず、思わず近くにいたメアリーちゃんの手を引いて来た道を速足で戻った。
「わ、わ!どうしたのスイ?顔真っ赤だよ?」
「気にしないで!ほらっここには何もないみたいだし、もういこ!早く出ないと!」
「…?へんなスイー」
真っ赤にしながらもギャリーがいるであろう方向だけは絶対向かないように歩いた。メアリーちゃんまでも巻き込んでしまったのはなんとなくなんだけど。
だからその後ギャリーが、どんな顔していたのかなんて知らなかった。
「……………あんな反応されたら、せっかく普通に接しようとしてたのに意識しちゃうじゃない…」
「どうしたの、ギャリー?」
顔で手を隠しながら、壁に寄りかかってしゃがみこんでいたなんて。
青に溺れる
(あ、シロアリがいる)
(ひぃぃいいっ!??うそうそやだー!やだ、早く潰してスイ!!)
(つっ潰す!?)
(『ぼく かえりたい だけなのに』)