長くて細い階段をどんどん下りていくたびあの時の恐怖が襲いかかってきた。何があるか、何が起こるか分からないこの焦燥感。しかも今回は私はきちんと部屋で寝ていたはずなのにいつのまにか美術館にいるし。


「……でもごちゃごちゃ考えたってしょうがないし…うん。まぁとりあえず奥に…ってうわっ!?」


考えながら何気なくドアを開け何気なく角を曲がったらそこには「青い服の女」という題名の絵が飾られていた。…これあれかな。お決まりのほふく前進で追っかけてくるパターンかな。ふんいいじゃないかっ!前回私は蹴り倒したという輝かしい栄光があるのだからな!さぁ来るなら来い!

「…………」

「…………………」


はんのうがない。ただのえ のようだ。
うっわあああ何それ恥ずかしい!べっ別に追っかけないならそれでいいんだけどさ!でもさ、いくらなんでも…
とか言って安心したその時に来るとか!?


「……………」


こ な い !
うんもう行こう!きっと私からかわれているんだ!もうやだ恥ずかしい、私別に何も悪いことしてないのに恥ずかしいよこれ!
恥ずかしさを紛らわすために足早で窓の横を通り過ぎると、窓が突然赤く血ぬられていった。

「わっ!?」


血のような赤い液体は上から重力に従って下へと落ちていく。うわぁ…と思いながら部屋の中をそっと除くと、見覚えのある姿を見つけたので私はいそいでドアへ向かい、開けて部屋の中に飛び込んだ。


「…イヴちゃん!」

「…………スイ?」



赤い液体で溢れている花瓶と、赤く染まった窓。まるで殺人事件のようなその部屋に赤い薔薇を持った赤い瞳の少女、イヴちゃんが真っ青な顔でその光景を見ていたが、私に気付くと少し安心したような顔になった。だけどいつまでもこんなとこにいたら安心なんて出来ないだろうから、イヴちゃんを無理矢理引っ張って部屋から出た。


「イヴちゃん!久しぶり!…でも変な所で出会っちゃったね、怪我とかしてない?」


イヴちゃんに向きあって明るく声を上げながらぎゅっと抱きつくと、イヴちゃんは少しだけ微笑んでくれた。うっふふ久々に会ったけどやっぱり可愛いなぁ!相変わらず細いけど。


「…大丈夫…それよりここはゲルテナ展なの…?」

「うんそうみたい…。ねぇ、イヴちゃんはどうやってここに来たの?」

「……わからないの。ベットで寝てたんだけど、いつの間にかここに来てて…」


イヴちゃんもなんだ。イヴちゃんも私と同じパターンで…一体どういうこと?私たちもうゲルテナに用はないはずなのに、しかも私だけならいいけどイヴちゃんまで…っていうことはもしかしてメアリーちゃんやギャリーもいる可能性が高い…?なら二人だって危ないかもしれない!ならあんまりゆっくりしていられないかも。


「…イヴちゃん、とりあえず先進もっか!」

「う、ん」


さっき部屋に飛び込んだ時、私が下りてきたはずの階段はいつのまにかどこにもなかった。ということはもう出られないし戻れない。だけどここで暗くなっちゃイヴちゃんがもっと怖がると思い無理矢理明るく言った。イヴちゃんは少し動揺しながらもこくりとうなずいてくれたので、私はそんなイヴちゃんの手をそっと握ってドアノブに手をかけて開けた。
何がきてもいいようにイヴちゃんをさり気なく後ろに隠しながら部屋に入ると、そこには二つの絵が飾られていた。


「………『隠された秘密』と、『既視感』…」

「既視感って?」

「一回も体験したことないのに、もう体験したことあるような気がする…っていう意味だよ。」


そうイヴちゃんに説明してから目の前に飾られている『既視感』の絵をじっくり見ると、中央部分に書かれているのは明らかに薔薇の茎だということに気付いた。なんで薔薇…?それに『隠された秘密』…まだまだゲルテナ展に苦しめられそうな予感がする…。私はイヴちゃんに気付かれないようにぎゅっと拳を作ると、後ろにいるイヴちゃんと向き合った。


「…イヴちゃん、もう一度言わせて」

「?」


「絶対、イヴちゃんを守るからね」


前みたいに私はイヴちゃんの前でしゃがむと、笑いながらそう言った。
こんな可愛い女の子を再び怖い目に合わせようなんてゲルテナ展は何を考えてるんだろう。でも今度は貴方の思うままに動いてなんかやらないよ。イヴちゃんは、ぜったいに危ない目なんか合わせないんだから。

そう思いながら私はそっと立ち上がると、イヴちゃんが私の手を掴んできた。


「…わたしも、」

「ん?」


「私も、スイのこと守るからね」






平等なる



(スイ、私もう弱い子じゃないの)

(だから一人で背負わないで)












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