その夜は、何故か妙に肌寒かった。

「ん…」

私はその肌寒さに目が覚め、むくりと起き上がった。んー…?あれ毛布がないぞ?だから寒いのか…っていうか私ってば寝てる間に落としたのかな、うわあどんだけ寝ぞう悪いんだ…いや確かに良い方ではないかもしれないけど、流石にこの年になっても落とすことはないと思っていたのに…!
自分にショックを受けながら適当に手探りにあたりを触ると、

そこはベットの感触ではなく、冷たい床の感触だった。


「んん?」


あたりが暗いからよく見えない。けど自分が出した声が響くくらいだからかなり広いことはわかる。私の部屋は声が響くくらい広くはない。っていうことはここは私の部屋じゃない…?


「って、服も違うし!」


服の感触も見えないながらも確かめたら明らかに寝巻きを着ていなかった。カーディガンにワンピース…靴なども全て、

あの美術館に行った時の服装そのままだった。



「……と、とにかく夢かもしれない。もう一度寝よう…っていってもベットもないし寒いし無理か…」


ほっぺを試しに抓ってもちゃんと痛い。起きてる。ってことは誘拐!?…ってそれはいくらなんでもありえないか。漫画じゃあるまいし。
そう考えているとだんだんと暗闇に目が慣れてきて、ぼやっと全体の輪郭が見えてきた。よくよく目を凝らしてあたりを見回すと、


「ゲルテナ美術館…!?なんで!?」


床や壁が真っ黒だったけど見覚えのある薔薇の銅像、そう「精神の具現化」がはっきりと見えてきた。私は急いで立ち上がり他の場所も見回ったが、全部見覚えがあるし張り紙や例のポスターも当時のままだった。うそでしょ!あの時確かに皆で外に出たよ!イヴちゃんやメアリーちゃん、そしてギャリーと一緒に…。


もしかして、


「私だけ、ここに戻されたとか…?」



自分でいってぞわり、と鳥肌が立った。そんなはずない、そんなはずなんかない。そう思いながらも恐る恐る自分のカーディガンのポケットに手を入れると、


「……薔、薇……」


今度は花弁が10枚だけある薔薇がひっそりとポケットの中にいた。完全に、あのおかしな美術館の時と同じ。…ゲルテナめ、何を思って私を戻したのかわからないけどこうなったら意地でも貴方から解放されるからね!

そう思って一歩進んだ時、真っ黒な床と真っ黒な壁にはふさわしくない、ある色があたりに散らばっていることに気付いた。


「…赤い…花弁…?」


赤い花弁。
これってもしかして、


「イヴちゃん…!?」


赤い花弁といえばイヴちゃん。しかも散っているということからして、もしかしたらイヴちゃんがどこかで苦しんでるのかもしれない!私は何も考えず、その赤い花弁に誘われるがまま後をついていったら、ゲルテナ展のポスターがある受付のところまで来た。そしてそこには細い階段がひとつ。


「……いくしかない」


冷たい空気がそこから漏れ出しており、まるで私を拒んでいるかのようだったけれどこうしちゃいられない。イヴちゃんを助けなきゃ!
そう思って私は階段に足をかけ、そのまま進み始めた。


だけどつい気になってゆっくりと後ろを振り返ってみたら。


「え…?」

いくら瞬きしてみても赤い花弁をたどってきたはずだったのだが、その赤い花弁がなかった。消えたというわけではなく、まるで最初からそこになかったように。


そしてまもなく、階段と共に私は暗闇に解けていった。









淡いびらが呼んでいる




(今度は逃がさないよ、スイ)












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