視線を辿った先
ウォールシーナ内ストヘス区。 広場に賑わう人混みの中、瞳をキラキラと輝かしているマホの手をしっかりと握りながらリヴァイは彼女の後ろにピタリと着いて歩いていた。 半年に1度開催されるバザーの日。 運良く休みが取れた事で、「1人で行く」と言っていたマホに同行する事が出来た。
「あのお皿、綺麗ですね。ん……でも、向こうのお店にあるテーブルクロスも……」
視線をあっちこっちに飛ばしては、困った様に眉を下げるマホに、呆れ顏でリヴァイは言う。
「欲しいなら両方買えば良いだろ」 「でも、荷物になっちゃいますし……」 「何の為に俺が付いて来てるんだ」 「けど、そんなポンポン買うわけにもいかないです」
バザーがある度、嬉しそうに会場に向かうものの、毎回マホが購入する量は本当に微々たるものだった。 前回のバザーの時なんて、コースターセットを買ってきただけだった。 リヴァイからしてみれば、わざわざこのためにストヘス区まで出向くのだから欲しいと思ったものは迷わず買えば良いのにと思うのだが、マホはそうではないらしい。 色々見て回るのが楽しいなどという女子特有の性質はリヴァイには到底理解出来なかったが、次から次と店を巡っては物欲しそうに悩むマホの顏を見てるのは全く苦にはならないのだから不思議なものだ。
会場内の屋台で簡単な昼食を済ませ、店巡りを再開して間もなく、唐突にマホがピタリと立ち止まった。 今までなら、気になる店を見つければすぐ様その店の前まで駆け寄って商品を眺めていたのに、ピタリと立ち止まった足はどの店にも向かおうとはせず、ただ視線だけはジッと一カ所に注がれていた。 そんな彼女の視線を追掛ける様にそちらへと目線を向けたリヴァイは、視界に入った眩しい白に思わず目を細めた。 それは、きらびやかなドレスばかりを並べた服飾店で、丁度中央に位置する場所に、純白のふわふわと幾重にもレースが連なったドレスが陽の光を集めて眩いばかりの光沢を放っていた。
そういえば初めて一緒にバザーを回った時も…………
数年前の、まだ恋人でも無かった時の出来事がリヴァイの脳裏に眩しく甦って来る。 あの時もマホは、憧れる様にドレスを見つめていた。 “ドレスじゃなくて結婚に憧れる” と、そう言っていたマホだが、純白のドレスにだって憧れを抱かないわけじゃないだろう。
もちろん結婚も…………。
「マホ」
リヴァイの声に、ハッとした顔でマホはその店から目を反らし、金色の髪を揺らしながら恥ずかしそうに笑った。
「あ、ごめんなさい!ちょっとボーッとしちゃって。行きましょうか」 「…………ああ」
例えば、今此処で、あの眩いドレスを買ってやると言ったところで、マホは頑なに首を横に振るだろう。
それに…………此処に売られていたからポン、と買うというモノじゃないだろう。
いつか近い将来、その時が来たら、彼女の為だけにデザインした彼女の為だけに造られたドレスを…………。
秘かに目論んだ口には出せない願望を胸に抱き、リヴァイは静かにほくそ笑んだ。
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