ぎくしゃくするな、こっちまで照れる
それは、二人が恋人となってから初めてのデートの日。 コンコン、と部屋の扉をノックする音に、マホは鏡に映った自分の姿をもう一度確認して、服をパンパンと伸ばしてから、ゆっくりと扉を開いた。
「お、おはよ……」 「……ああ。行くぞ」
チラリ、とマホの服装を一瞥して、そう言ったリヴァイの反応に、マホは少し物足りなさを感じつつ、彼に着いて部屋を出た。 石造りの廊下を進む間、リヴァイは一言も話さず、だからマホも何も喋りかけれず、妙に静かな空間に、コツコツと二人分の足音が響いていた。 何処に行くとも聞いていないが、2人並んで本部を出れば、門の前には立派な馬車が停まっていた。 さり気ないエスコートでキャビンに乗せられ、隣に当たり前の様にドサッとリヴァイが腰を下ろした事でいよいよマホは緊張しだして、わざとらしく窓の外に顔をやった。 こんな風にリヴァイと出掛ける事は初めてでは無い。だが、恋人という形で出掛けるのは初めてで、恥ずかしながらリヴァイに対してそういう感情を抱きだしたのも恋人になった日とほぼ同じ時で、だからこそ余計に気恥ずかしいのだ。 デート……その言葉を胸の中で唱えるだけで、ボッと耳が熱くなる。
「マホ」
不意打ちの様に隣から飛んで来た声に、マホはビクッと大袈裟な程に飛び上がった。
「な、な、何っ……!?」
顔は変わらず窓の外を向いたままで、上擦った声を放ったマホに、リヴァイはフゥと小さく息を吐いた。
「ぎくしゃくするな、こっちまで照れる」 「べ、別にギクシャクなんて……」 「なら、こっちを見ろ」
グイと肩を引かれて、マホは「うぅ……」と 情けない声を上げながらも渋々とリヴァイの方へ顔を向けた。だがしかし、その瞳は明後日を向いていて、おまけに今にも泣き出しそうに潤んでいる。 真っ赤に染まっている彼女の頬にリヴァイの指が遠慮がちに触れた。
「嫌だったか?」 「え?」 「今日、誘ったこと……」
悲しい色を孕んだリヴァイの声に、マホは慌てて首を横に振る。
「違っ……そうじゃなくて。何かリヴァイは全然いつも通りで、ドキドキしてるのが私だけみたいで……」 「あ?」 「だって……ちょっと今日、お洒落してみたりしたけど、気付いても……」 「何言ってやがるてめぇ……」
その言葉と共に、逞しい腕に抱き締められて、更にマホのドキドキは加速した。 自分自身の胸の高鳴りと、キャビン内の揺れの所為で、リヴァイの心臓がドキドキと騒いでる事まではマホは気付いていなかった。 そんな彼女の耳元に、リヴァイは囁く。
「綺麗すぎてマトモに見れねぇんだよ、馬鹿が」 「はっ!?」 「俺は純情だからな。恋人が着飾ってると、照れる」
ああもう、そんな事を言われると余計に恥ずかしくて顔が上げれないじゃないか……と、マホは心の中で贅沢な不満を抱くのだった。
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