[フラフラとさ迷う心は、] [何処に行き着く] 初めて足を踏み入れた中学校の敷地内は、既に小学校から共にあがって来た同級生達でいっぱいだった。親もいて、人がわんさか。 わらわらわらわらとしている人たちの中、ぽつりと私はいる。 誰も、傍にいない。誰も、周りにいない。独り、だった。 でも、平気だ。私は人が好きじゃない。人間は嫌いというか、苦手だった。小学校低学年の頃は、やんちゃだったけれど、今はもう、無理だ。私にも、色々事情はある。 そんな私をよそに、何も知らない人達は皆久しぶりの再会を楽しんだ。 そんな景色を、次元が違うところから覗いているように、私だけ異質だった。 そんな中、一人の少女が動く。少しずつ、密夜に近づいた。そして密夜の背後から、少女は声をかける。 「何してんの、密夜」 高いソプラノボイス。綺麗な声は、凛と響く。 ぴくり、肩を揺らして振り返った私。 誰だろう、私に声をかけたのは。そんな疑問は湧かない。声で直ぐに分かる。彼女は、特別だから。 彼女は、私の大切な人。忘れることは、ない。 「ひな、」 名を呼べば、ふわりと綻ぶ顔。 ふふっと笑うひなは、暖かい。日溜まりの笑顔で、私を癒した。 嗚呼、この笑顔は壊したくない。 「密夜、昨日ぶり!」 昨日何してた?ひなはね―、と元気に話す彼女。それに答える私。 けれど、彼女は知らない。 私に裏があることも。本気で笑わない事も。猫かぶりで、嘘つきで偽ってる事も、全部総て。 もしも彼女のように表裏なく一枚の面ならば、表があり裏がある私は、闇に落とされ死を逃れさ迷う滑稽な猫だ。 [フラフラさ迷う心は、] [何処かへ行き着く前に] [ こ わ さ れ る 。] しおり |