「…最善の手を尽くしましたが―――」 医師の声が言う。悲しみの音色を奏でながら、真紘さんは亡くなられました、と。両親が、おばさんたちが啜り泣く声がする。 嘘、嘘嘘嘘。 そんな嘘―――――言わないでほしい。 「真紘、真紘っ」 ゆさゆさ揺らすと、ゆさゆさと揺れる身体。 頬を、手を、額を、輪郭を触れば、冷たくなる指先。 堅く閉ざされた瞼と口。何度読んでも、閉じたままで開けられることはけしてない。 「真紘真紘真紘真紘真紘真紘っ!!」 ―――声をきかせて、声を 零れおちる涙でぐしゃぐしゃにした顔で、叫ぶ。喚いて、揺らして、溺れる。 嘘だっ…! 「お、お客様!お静―――」 「そっとしておいてやろう」 看護婦の声も、医師の声も何も聞こえない。今聞きたいのは、真紘の声と心音。あの手とまた繋ぎたい。 少し頬を染めて照れるところとか、あの眩しい笑顔とか。大切な真紘のもの全部。この手からするりとすり抜けて何処かへ落ちていく。其れを必死になってかき集めようとする自分。 なんで、言ってくれなかったんだろう。 言ってくれたのなら、毎日毎日通う時に花束とか、真紘の大好きなものとか、キスとかいくらでも、いくらでもあげたのに―――。 mokuji ≠ しおりを挟む |