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「#幼馴染」のBL小説を読む
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Felicidades, Burro!

「結婚式の日取りは決めたの?」

衝撃の婚約宣言から数か月、俺はアントーニョの家のソファでだらだらとワインを傾けていた。今日は珍しくギルベルトは不参加だ。俺とアントーニョ、二人だけの飲み会なんて何十年ぶりだろう。
いつも通りのくだらない世間話の流れで、結婚を間近に控えた友人の惚気話になるのも当然と言えば当然の展開だ。それに、俺は彼女に結婚式の後に開かれるであろうパーティで使うドレスをプレゼントする約束もしている。早めに日取りを聞いておかねば、気候やその時期に咲く花に合わせたドレスを作れない。

「んー、6月がええかなーって思っとるとこなんやけど。気候もええしな」
「そーね。式場は?」
「アンダルシアのモンテフリオ。ほらな、あんま大事にしとおない。俺ら身内もおらんし、昔から深う付き合うとる奴だけ呼ぶって話しとるよ。新聞くんにすっぱ抜かれとうもないしな」
「もうすっぱ抜かれてるけど」
「マジでか!?」

ここに来る前にバルセロナで購入した地方新聞をアントーニョに向かって放り投げると、アントーニョは慌てた顔で彼の婚姻について報じられているページを探し出し、ワインでの酔いが醒めたように新聞紙を握りしめた。ちょっと、それお兄さんが買ったんだけど!

「あー、やってもうた……どっから調べてくるんよ……ルエトを引き取った時も3日でばれたっちゅーのに……情報統制がどれだけ大変やったか……」
「うるさいよスペイン王国。有名税みたいなもんだろ、いい加減自覚しとけよ」

それにさ、祝福されてるみたいだからいいじゃない。確かに現在この国の地方たちが全員アントーニョを愛しているわけではないけれど、それでも少なくともバルセロナを擁するカタルーニャは、普段あれだけ独立独立と言っていても、何だかんだでお前の恋を祝福していると思うよ。そうでなければわざわざこんな大一面にびっくりするほど写りのいい写真を使うはずもない。それを口にも出さずに、俺は赤ワインを傾ける。

「どうすんねん……俺とルエト二人だけの結婚式が……」
「こら、お兄さんを締め出すなって。いいじゃない、祖国が幸せになったってとこ見せてやればいいさ」

ソファに寝転がってうーうーと唸っているアントーニョの腰をワインボトルで少し小突いてやると、まだ嫌そうな顔をしながら起きあがったアントーニョが俺の手からワインボトルをひったくった。

「ルエトを幸せにすんのは当然や。俺がずっと傍で見てきた子やもん、俺しかルエトを幸せにできる奴はおらんて」
「はいはい。頑張ってよね、ルエトは俺の可愛い妹でもあるんだから」
「お前に言われんでもそうするわボケェ!」

引きちぎるように抜いたコルクと栓抜きを放り投げ、アントーニョはボトルをそのまま口に運ぶ。あーあ、みっともないんだから。ルエトが見たら怒るよ?それを指摘してやるほど俺は優しくはないから、ワインが口の端から零れるのも気にせずに酒をあおるアントーニョを止めたりはしない。
あー、こんな酒癖の悪い飲んだくれが可愛い妹分の旦那様なんていまだに信じたくないよね。今からでいいから撤回してくれないかな。そしたら俺の心はこんなに荒れたりしないのに。
けれど、それと同時に美しい白いドレスに身を包んだルエトを見るのが楽しみで仕方ないのだ。そして、マリアヴェールをかぶったルエトに一番似合う笑顔を与えられるのはこいつだけだともわかっているから。
だから結局、俺は二人の世話を焼いてしまうのだ。

「もー、少しは酒控えなさいよ!お前、酒飲むと感情的になるんだから、ルエトが泣くぞ!」
「わぁん、返したって!」
「飲んでる暇があったらハネムーンのプランでも考えたらどうなんだよ!うちにくるならお兄さんが全旅程プロデュースしてやるから!」
「もうエッフェル塔は見飽きたわー」
「うっさい!一生に一度の思い出もまともに作ってやれない男になりたいの!?」

人の話を聞いてるのか聞いてないのか分からないアントーニョの耳を思い切り引っ張って、俺は旅行情報誌を妹の旦那様の鼻先にたたきつける。カタルーニャの旅行会社の店先から持ってきたバルセロナ=エル・プラット空港発の航空プラン雑誌からはらりと落ちたメモの切れ端を横目に、俺はちいさく笑った。

『Felicidades, Burro!』

ほら、やっぱお前は祝福されてるよ。
耳が痛いと喚くアントーニョを引きずり、俺はルエトの笑顔だけを思い浮かべて雑誌を開いた。


20150909


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