あえかな君と共に生き | ナノ

未だ恋は額縁の中


 美々子と菜々子が小学生へ通い始めて半年が経過した。
 お互い元々心配性だったのか、初めの頃は送り迎えに始まり、二人だけの登下校が始まると夏油は手持ちの呪霊を護衛としてつけるようになった。非術師を嫌う彼にとってみれば、小学校への入学は動物園の檻の中に娘二人を放り込む事と同意義だったのである。

 半年間の間に大きな事件が二つ起こった。
 一つ目。菜々子が膝を怪我して帰って来た時の事だ。帰宅途中自発的に転けたのだと菜々子は語り、美々子もそれに同意したので対人による怪我ではないと断定されたが、小さな膝から滴り落ちる血の赤に、夏油も名前も大慌てで救急箱を引っ張り出した。こんな時、反転術式が使えれば良かったのにと心底思う。かと言って、膝を擦り剥いただけで何かと忙しい硝子を呼ぶわけにもいかず、二人は消毒の後、大袈裟なほどに巻きつけた包帯を早く治るようにと摩る事しか出来なかった。

 二つ目。美々子がぬいぐるみを抱いたまま泣きじゃくって帰って来た時はもっと大変だった。菜々子も今回は頬を膨らませて、双子の姉妹の手を握りしめたまま、目尻には大粒の涙を溜めていた。吃逆を上げる美々子を抱き上げて根気強く何があったのか聞いてみると、なんでも同級生の男子にぬいぐるみが変だと揶揄われたのだと言う。
 美々子が常日頃から腕に抱いているぬいぐるみは、彼女の術式の安定に欠かせない品物だ。確かに学校へ持っていくには不向きな物ではあったが、そこは夏油や名前が学校側に根気強く話したおかげで許可が降りている。それを非術師の、猿に揶揄われ、ショックを受け、涙を流している。泣き止まない二人の背中を摩る夏油の我慢の糸は、脆く千切れた。
 その日は、名前が任務で留守にしていて家には夏油と遊びに来ていた五条しかいなかった。故に、非術師を嫌う夏油の怒りを収められる者がこの場にはいなかった。今にも呪霊に飛び乗り、害獣駆除へと向かいかねない特級呪術師兼親友を、五条は文字通り身体を張って止めた。

「離せ悟! 猿め、この手で生まれてきた事を後悔させてやる……」
「だからそれが駄目なんだって! おい、双子! 急いで名前に電話! 用事ィ? そんなん後でいいから早く帰って来いって言って!!」

 でないと僕の腕が持たない!
 競り合いの末、家の壁には大きな穴が開き、五条の叫びを受け取り早々に帰宅した名前は珍しく本気で怒った。修繕費は勿論夏油が名前に預けた通帳から捻出される事となり、それを知った夏油は申し訳なさ半分嬉しさ半分で随分と締まりのない顔をしていた――と語ったのは、整った顔面を大きく腫らした五条悟その人である。
 なお、美々子を揶揄った男子は後日担任のお叱りを受け素直に自分の非を認め謝罪した。

 これら半年間の騒動の結果、夏油の過保護が加速したのは言うまでもない。

 二〇一〇年夏。美々子と菜々子は揃って小学二年生へと学年を一つ登った。
 この田舎町にある公立小学校は小さく、各学年とも一つしかクラスがない。よって在学中の六年間、二人が離される事はなく、それに夏油も名前も内心非常に安堵していた。

「名前ー、手紙ー」
「んー? ありがとうー」

 長いようで短い一学期が終わり、子供達は長くも短い夏休み期間へと突入した。
 学校で話す子はいるけど休みの日までは一緒に過ごしたくない。やっぱり非術師は嫌いだから。美々子と菜々子、二人はそう言って夏休みの大半を家で過ごしている。
 それは本人達の自由であるのだし、強制するつもりもないがずっと家にこもっていてもつまらないだろう――そこで一夏の思い出に、と念入りな下調べの末、あまりメジャーではなく非術師も少ない穴場の海水浴場へと連れて行く事にした。二人は海を見るのは初めてで、海水のしょっぱさや熱い砂の感触に大袈裟なほど驚いては嬉しそうに笑い声を上げたものだ。お盆前の話である。

 夏休みの宿題の一つである朝顔の観察日記をつけ終えた菜々子が、クーラーの着いたリビングへ駆け込む。ついでにポストを確認して来てくれたらしく、片手に白い封筒を持って名前へ差し出した。
 封筒を受け取り、封を切る。菜々子は中身が気になるらしく、名前の腕の隙間から顔を出すと柔らかな身体にしがみつくようにして便箋を覗き込んだ。

「読めない。なんて書いてあるの?」
「同窓会のお知らせ。中学の同級生達で集まりましょうって事」
「誰が?」
「私が。私の同級生達と」
「ええーー!!」

 少女の甲高い声による耳元での大絶叫の威力は絶大だ。キーンと痛む耳を押さえている間に、菜々子は、名前の手から便箋を奪い取ると「夏油様ー!!」と座敷で寝ている夏油の元へ駆け出してしまった。
 ああ、昨日任務で帰りが遅かったから寝かしておいてあげたいのに――そう手を伸ばすも既に遅い。リビングから廊下を挟んで向いに位置する座敷からは「なんで美々子、夏油様の布団に入ってるの! ずるい!」と、またしても菜々子の絶叫が聞こえて来る。先程から美々子の姿を見ないと思っていたら夏油の布団へ潜り込んでいたのか。重い腰を上げ、布団が一組敷かれたままになっている座敷を覗き込んだ。

「どうそうかい?」

 寝ぼけ眼で随分と舌足らずに呟く夏油の手元には、先程菜々子に奪われた便箋がある。ピョンピョンとあちこちに向かって跳ねた黒髪に、昨晩乾かさずに寝たのだなと内心呆れつつ、名前はまだ布団に包まったままの美々子を抱き起した。

「来週じゃないか。随分と急だね」
「うん、行かないって言ってたんだけどね。卒業式で埋めたタイムカプセル掘り起こすみたいで、極力全員参加してほしい……だって」
「へえ……」

 夏油の寝ぼけ眼が段々と剣呑な光を帯び始めているのが、名前の位置からでも見えた。
 多分、本人は無意識なのだろうがなんとも分かりやすい。名前は苦笑を浮かべつつ、夏油の手から便箋を取り上げる。

「もう一度断りの連絡入れとくよ。タイムカプセルは後日取りに行けばいいしね」

 それだけを告げ、名前は便箋片手に座敷を後にした。その後をタイムカプセルに興味を持ったらしき菜々子が追いかける。
 静かになった室内で、夏油は考え込むように俯き、一人事の次第を知る事のない美々子が、再度惰眠を貪るべく枕へうつ伏せに倒れ込んだ。



「同窓会? そりゃあ名前さんの気分次第だろうけど行く意思があるなら行かせてやればいいじゃん。あんま甘え過ぎんなよ」

 家入硝子の鶴の一声により、名前の同窓会行きは急遽決定となった。



 よりにもよって夏休み最終日でなくても良かっただろうに。
 最寄駅まで名前を見送りに出た夏油は、助手席で荷物の整理をする彼女をの横目に挟みつつ、ハンドルに肘をついて俯いた。後部座席では同じく見送りに来た美々子と菜々子が身を乗り出して口々に名前へ注意点を述べている。
 帰って来る時は電話をする事。非術師とは仲良くしない事。帰りに街のお菓子屋さんでお土産を買って来る事。最後はただのお強請りであったが、予々同意見なので口を挟みはしなかった。

「あんまり長居するつもりはないけど、もし遅くなるようだったら先に寝ていてね」
「名前」
「ん?」
「スマホかしてくれない?」
「なんで」
「なんででも。お願い」

 訝しむ様子を見せる名前からなんとかスマートフォンを受け取り、ロックを解除する。
 名前も夏油もロック番号は美々子と菜々子の誕生日だ。お互い隠す事もないので、たとえ中身を見られようと予め許可さえ取っていれば慌てる必要もない。
 夏油は、カメラアプリを立ち上げると後部座席へ視線を投げ「二人共、笑ってー」とやる気のない声で合図を送る。美々子と菜々子は、カメラレンズに写り込むべく夏油の頭から横にズレた。頬をくっつけ合ってピースサインをする姿は素直に可愛らしい。
 一連の流れは鮮やかで名前が口を出す暇さえなく終わった。夏油が何やら操作したスマートフォンが戻って来ると、次の電車まで後五分もない事に気がついた。これを逃せば同窓会に遅刻してしまう。ただでさえ卒業以来、久々の参加なのだ。当時の級友達からお小言を頂くのは避けたい。

「送ってくれてありがとう、夏油君! それじゃあ、美々子、菜々子、行って来るね!」

 珍しくミュールを履いた足が助手席から旅立って行った。
 こんな事のために我慢して車の免許を取ったわけではないのだが。名前の背中が駅舎に消えたのを確認し、夏油は車を走らせる。
 家の冷蔵庫の中身を思い出しつつ夕飯の献立を考えていると次第に頭痛がしてきた。確かに私は名前に少し甘えすぎているのかもしれない。今になって家入の言葉が少し、ほんの少しだけ身に染みた。



 夕飯は済ませた。入浴も済ませた。では、後は――

 濡れた髪をタオルで拭きながらリビングへ足を踏み入れる。夏油より先に二人だけで入浴を済ませた美々子と菜々子は、テレビに夢中でこちらに気づかない。どうやら夏休み最後と銘打った特別番組が放送されているらしく、四角い液晶画面からは最近流行りだという芸人の笑い声が響いていた。
 ひとまず寂しがっていない様子にホッとする。夢中になっている二人の邪魔をしないように机の上のスマートフォンを取ると、そこには何の通知も入っていない。
 現時刻は二十時四十分。確か同窓会は十八時半からで予定としては二時間だったはずだ。そろそろ連絡が来ても良い頃なのだが、と考えて頭を振った。これでは、ただの束縛男ではないか。

「名前まだ?」
「! うん、もう少しかかるみたいだね。先に寝ていようか」

 振り返った菜々子は、夏油の言葉に首を横に振る。その横の美々子も「待ちたい」と小さな声で呟いた。

「でも、明日は学校だよ? 起きられなかったら困るだろう」
「起きれる!」
「名前、ちゃんと起こしてくれるもん!」
「名前の事はちゃんと私が迎えに行くよ?」
「やだ! 私達も迎え行く!」
「名前が帰ってくるまで寝ない!」
「……そう」

 こうなれば梃子でも動かないのがこの年代の子供達だ。いくら夏油が諭そうと首を縦に振る事はないだろう。
 早々に諦めをつけた夏油は、その場に胡座をかいて座り込む。そうして番組がエンドロールに差し掛かるタイミングで美々子と菜々子の名前を呼んだ。

「以前、聞きそびれてしまったけど、恵……伏黒君の所へ遊びに行った時を覚えているかな?」
「うん、覚えてる」
「その時、二人は名前について行っただろう? あれは何故だったんだい?」

 名前が美々子、菜々子を連れて埼玉にある伏黒姉弟の家へ行ったのはちょうど一年前になる。当時の事を思い出しているのか、二人の表情が不愉快そうに歪む。大方五条とのやり取りを思い出しているに違いない。五条は触れ合いと称してよく二人に絡むので。

「名前が、心配だったから」
「猿のところへ行くんだって思ったら怖くなったから」

 二人の回答は夏油の想像通りだった。
 非術師である村民から虐げられて育った二人は、その頃の悪夢からまだ完全に脱してはいない。時折、特に夏になると夜中魘される事がある。茹だるような暑さの中、汚泥と悪意と呪いに満ちた檻の中、二人身を寄せ合いただ耐えていた頃を夢に見る。その度、夏油は二人が落ち着くまで腕に抱いてやっていたし、名前も寝汗をかいた二人の身体を拭いてやり飲み物を用意してやった。
 二人は、非術師を強く憎んでいる。けれど同時に恐れてもいた。力の使い道を覚え、身につければ何時かは消えるその恐怖は、まだ幼い身体にはひどく重い。

「そう。伏黒君の家はどうだった?」
「伏黒はあんまり。無口だし」
「名前が津美紀に構っている間、五条がずっと話しかけて来てうざかった」
「はは、うざいか。それは災難だったね」

 五条なりに二人が拗ねないように気を使ったのだろうに、彼はどうにも親愛表現が下手なのだ。

「名前が、ランドセル見て、ほめてた」
「学校の話をしてた」
「うん」
「だから、行ってみようかなって思ったの」
「名前、喜ぶかなって」

 小学校への入学を決意した二人の顔を、今でも鮮明に覚えている。
 二人で固く手を繋ぎ合って「学校行く」と一言。夏油達がどれだけ心配しても、それ以外は決して口にしなかった。ただ、ランドセルに目を輝かせ、自分だけの筆箱やノートを見た時は年相応のあどけなさがあったから、夏油も渋々ながら入学を決断出来たのだ。

「名前にその事言ってあげないの?」
「言わない!」
「きっと喜ぶよ?」
「言いたくないの! 夏油様、ぜっったいに名前に言っちゃダメだからね!」
「はいはい」

 そうしていると、スマートフォンが一通のメッセージを受信した。差出人は名前。どうやら今電車に乗ったので後三十分後には最寄駅に到着するらしい。

「名前を迎えに行こうか」



 郊外の田舎町なだけあって、帰宅ラッシュを過ぎれば電車の本数も減り、駅周辺は人通りも少なくなる。ロータリーで車を止め、駅舎から出てくる人の中に見知った彼女の姿を探していた。
 風呂上がりのまま自然乾燥になった黒髪を手首のゴムで結び上げていると、後部座席に座っていた菜々子が身を乗り出した。

「いた!」

 幼い指先を目で追うと、確かにそこには名前がいた。三時間前、車を降りて行った時と同じ姿、否少し疲れた顔をしてキョロキョロと周囲を見渡している。こちらを探しているのかと軽くクラクションを鳴らすべく、手を添えたその時だ。

「猿……」

 憎しみを込めて呟いたのは美々子だった。三人の視線の先、名前の横には知らない男が立っていた。明らかに非術師と見える男は、酒を飲んで赤い頬を緩ませて何やら名前に話しかけている。それに彼女が困ったように首を振った。
 思わず舌打ちが漏れる。幼い二人の教育に悪いとは分かりながらも止める事が出来なかった。
 ヘッドライトをつけて車を寄せる。驚く男に見せつけるように窓を下げて、にこやかに顔を出した。

「名前、迎えに来たよ」

 夏油は自分の容姿が時として有用である事を知っている。女性からみれば魅力的な異性の条件に、男からみれば勝てない格上の相手として見做される。昔からそうだった。
 加えて教祖として非術師と接する際の作り笑いには定評がある。相手を憎むべき害獣としか見ていなくとも友好的な笑みを浮かべるのは、夏油にとって造作もない事だった。

「そちらは?」
「あ、中学のクラスメイトなの。今日実家に帰るらしくて、もう遅いし送ってくれるって」
「そうだったんだ。それは、名前がお世話になりました。ご実家はどの辺りですか? 近くまで送りますよ」

 ミラー越しに見える美々子、菜々子の視線は七歳の少女とは思えぬほど鋭い。きっと男は気づいているはずだ。双子の少女の視線も、夏油の笑みの裏にある意図も、本能で察知していてもらわねば困る。
 男は慌てて取り繕うと手短に挨拶をして夜の町へと消えて行った。取り残された名前がおずおずと後部座席へ乗り込む。彼女が着席したのを確認してハンドルを切る。夜の町を走る最中、先程の男の横を通り過ぎた。男の姿を目にしたのは夏油だけで、後部座席の三人は気がついていない。

「美々子、菜々子、もう二十二時だよ? 迎えに来てくれたのは嬉しいけど明日起きれるの?」
「名前が起こして」
「お土産は?」
「ええ、自分で起きる気ないの……はあ、お土産は買ってきてるけどこれは明日のおやつ」
「やだ、今食べたい!」
「ダメ。こんな時間に食べる物じゃありません」
「ケチ!」
「ケッ!? どこでそんな言葉覚えるの!?」

 記憶からすっかり排除したかのように日常的な会話を繰り広げる三人を見て、夏油は僅かに先程の男へ同情を寄せた。
 徒歩ならば相当の時間がかかる距離も、車ならばものの数分で家に到着する。車庫に車を停車させ、エンジンを切ると美々子と菜々子が鍵を手に車を出た。その後を更に疲労の色を濃くさせた名前が追いかける。

「名前、スマホのホーム画面気に入ってくれた?」

 夏油は、その背中に待ったをかけた。ロックをかけた車のキーをポケットに仕舞い込んで、にっこりと、今度は営業用ではない本心からの笑みを浮かべる。
 対して名前は、錆びた機械のようなぎこちない動きで夏油へと振り返り、何やら言いたげに唇を動かした後大きな溜息を吐いた。

「もう、それはもう散々周りから聞かれましたよ」
「なんて聞かれたの?」
「白々しいな! だから、この写ってる三人との関係はって聞かれたの!」

 夜間であるのを自覚して、名前の声は怒気を孕んではいるものの最小限の音量に留めてある。吐き慣れないミュールでこちらへ寄った彼女の腰を片手で支えてやれば、目前にスマートフォンを突きつけられた。
 四角い画面には、口端を持ち上げてはいるがほぼ無表情の夏油と笑顔を浮かべる美々子、菜々子の姿が映し出されている。名前を送り出す際に夏油が撮影し、設定した写真だ。

「大切な家族が猿に色目を使われるのは耐えられないからね。予防線を張らせてもらったんだよ。それで、名前はクラスメイト達になんて答えたんだい?」

 家入の鶴の一声、そして名前を送り出した際、夏油は名前に甘え過ぎている事を自覚した。けれど、それを恥じる気は一切なかった。我儘になって良いと言ったのは名前本人であって、むしろ彼女は遠慮される事を嫌がる。だから今回も、夏油は、同窓会への出席を承諾しつつも自分に対し素直に我儘を押し通したのだ。
 勿論、それを名前も頭のどこかで理解している。今だってなにも本気で怒っているわけではない。説明した時の苦労を少しでも張本人である夏油に理解してもらいたいだけだ。
 彼女は、頭痛がすると言いたげに額に手をあてて目蓋を閉じた。唇の端が苛立ちからかヒクヒクと震えている。

「で、なんて答えたの? 教えてよ」
「……あー、もう、家族って答えたよ! 幾つで産んだんだとか、誤解が上手く解けなくて苦労したんだから……」
「ふふ、お疲れ様。満点の答えだよ。花丸をあげよう」

 花丸の代わりにハグだなんて随分と自分に都合の良いご褒美を与えつつ、名前の香りを深く吸い込む。だが、彼女の香りに混ざって鼻腔を擽る別の匂いに気分が一気に低下した。
 ひとまず入浴を済ませてもらおう。もう夜も遅い。無理をして起きている美々子、菜々子はすぐに眠ってしまうだろうから、その後、もう少しだけ二人の時間を取っても良い筈だ。
 疲労の色を濃くさせる名前の背を押して家へ入り、鍵を閉める。やっと家に帰って来れた気がした。

20210827