>>気紛れスキンシップ


「やああ!どうも!初めまして!!サーの所で絶賛インターン中、通形ミリオって言います!!」

「初めまして、私は」

「苗字名前さんだよね!サーから耳が千切れそうになる…あ、耳タコになるくらいお話は聞いてます!!」

「はあ、どうも」

「これから是非俺とお茶しましょうよ!!」

どうやらこちらの予定を聞く気はないらしい。いきなり名前の目の前に“現れた”上半身半裸の男、通形ミリオはニカッと人の良さそうな笑顔を浮かべて、親指を立てた。
新手のナンパにも見えるが、以前ナイトアイから今一押しの人物がいると掻い摘んで聞いてはいたので、そこまで不審には思わない。
ただ何のアポイントもなく──恐らく彼の個性であろう──壁から突然出てくるのは止めていただきたい。心臓に悪い。落ちた服を拾い上げる姿をちらりと見て、名前は胸中思う。ガッシリとした体躯に天真爛漫という言葉が当てはまるような言動──成程確かにサー・ナイトアイが好きそうな人材である。

「ところで、どうして上半身の服が脱げてしまうの?個性?」

「俺の個性“透過”なんだよね!微調整がどーも難しくて!上半身だけで済んだのは気合だよね!流石に初対面でいきなりちんちんを露出するわけには!ね!!」

「……そう」

さあさあ!とぐいぐい腕を引っ張る通形に、諦めたように名前は溜息を吐いた。
引き摺られるようにして近くのファーストフード店に着いた頃、ナイトアイから名前のスマフォに“もしかしたら近いうちに今事務所で面倒を見ている雄英のインターン生がそっちに行くかもしれない”というような内容のメッセージが届いた。時既に遅し、である。謎の疲労感に苛まれながら、“もう捕まりました”と送り返していると、何時の間に買ってきてくれたのか、使い捨て容器に入ったコーヒーが置かれた。
椅子を引いて向かいに腰を下ろした通形は飲み物の他にハンバーガーとポテトも注文したらしく、ドリンクを一口飲んでからいそいそと食べ始めた。自由人だ。

「私に会いに来た理由は?」

「あ、これと言ってないですね!強いて言うなら、サーが気にしている人だから」

「そう…」

「もっとイカツイ女の人想像してたけど、まさか真逆とはね!これが世間で流行ってるギャップ萌えってやつ?ハハッ」

「期待に添えなくて申し訳ないけど…」

「でも、強いんだよね?」

きらりと通形の瞳が好戦的に輝く。名前は敢えて否定も肯定もしなかった。ただ、目はじっと通形を見つめたままだ。

「…通形くん」

「ミリオでいいっすよ、名前さん!」

ポテトを口に咥えて、にっこりと通形が笑う。一見無邪気そうな雰囲気を出しておきながら、瞳の奥は未だ挑発の色を宿したままだ。
若いというのは、大人にとっては時に怖いと思わせる対象でもある。経験が乏しい分、引き際を知らない。けれど、機動力もあり、向上心も、可能性も、無限であり未知数。
表裏のない表情の奥に隠れている、溢れんばかりの好奇心。目の前の少年は苗字名前という人間に、純粋に興味がある。それは自身のインターン先であるサー・ナイトアイの弟子であり、オールマイトの相棒であるというオプションが付いているからかもしれない。
コーヒー片手に、空いている手を前に突き出した名前は、ゆっくりと人差し指を左から右へと動かした。ぽと、と無機質な音がして通形が咥えていたポテトがテーブルに落ちる。「あれ?」と急にポテトが目の前で切断されて通形は目を丸くする。それを拾い上げ、ぱくりと名前は口の中に含んだ。程よい塩っけが口内に広がる。少し冷めてしまっているのが残念だ。今度は名前が挑戦的に口角を上げて、通形を見据える。ぞくりと背中が粟立ったのが分かった。
一瞬脳内でポテトが自分の首に置き換えられたような感覚が廻り、通形はここで初めて笑顔を崩し眉間に皺を寄せた。

「ごちそうさま」

「高校生相手に怖い人だなあ!」

「大人は舐められる訳にはいかない生き物だから」

空になったコーヒーの容器を持って名前は席を立つ。時間は作った、もう十分だろう。知り合ったばかりの人間の食事に付き合ってこれ以上のんびり待ってあげる程、名前も暇人間ではないのだ。ひらひらと手を振って背を向けた名前を引き留める声はない。

「今度は、真面目に相手してもらえるかなあ。まあ、そうじゃなきゃ困るんだよね!」

ハハッと一人陽気に笑って、通形はハンバーガーのフィルムをくしゃりと握りつぶした。

(あれ?八木さん、今日は早いですね)(ちょっと緑谷少年がオーバーワークしててね、そんな状態じゃ仕方ないから今日は切り上げた)(若いっていいですねえ、こわいこわい)(どこかに出かけてたの?)(もっと早く帰る予定だったんですけど、買い物してたら上半身半裸の少年に捕まりまして)(……え?)(?だから、上半身半裸の──)(ちょっと待ってね、)
言葉を遮り、財布を引っ掴んで出て行った八木は、数十分しないうちに戻ってきた。(今日から肌身離さず持つこと、いいね?)と、見慣れた携帯ショップの袋から取り出したのは、防犯ブザー付き携帯──世間一般に言う“見守りフォン”という代物だ。大人しく受け取ったはいいものの、名前は首を傾げる。名前の中で考えるこれを持たせる対象年齢というのは、世間一般とズレてはいない筈だ。口を開こうにも、吐血しながら有無を言わせぬ雰囲気を出す八木に、逆らう事は出来なかった。


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